Wedge REPORT

2020年4月1日

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政策に生かされなかった専門家会議

 新型コロナウイルスの発生を受け、政府は「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」を発足させた。専門家会議が実態のわからないウイルスについて専門的な知見を集め、国民にも必要な情報を丁寧に発信してきた。ただ、ただ、この専門家会議での議論や検討が危機対応の社会政策に十分に生かされなかったと、福田氏は指摘する。

 「専門家会議のメンバーは感染症の専門家ばかりで、感染症の特性やクラスターの分析の議論が中心となり、感染拡大を防ぐための幅広い社会政策を全体的に議論できる場になっていない」というのだ。実際に、首相が学校休校措置を発表したとき、専門家会議ではその点について議論がなかったと報じられている。「感染症の専門家はウイルスや感染防止、治療についての知識が豊富であるが、自治体や企業、学校がどう対応すべきか、という社会政策には詳しくない。ましてや関連する法律の整備や改正については社会科学の知見が求められる」。専門家会議や有識者会議には、医学、公衆衛生学、公共政策学の分野の専門家がバランスよく配置されることによって、全体的な感染症対策が導き出されるのである。

 専門家会議や有識者会議のメンバーは内閣官房が以前から設置していた「新型インフルエンザ等対策有識者会議」と多くが重複している。第一線の専門家だからこそメンバーは重複して当然である。「そうであるならば、初動の段階で新型インフルエンザ等対策特別措置法を適用していれば、これまでの体制や計画をより有効に利用、活用できたのではないか」と振り返る。

ダイヤモンド・プリンセス号での対応はなぜ世界から批判されたか

 新型コロナウイルスの集団感染が発生したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」について、船内での日本の対応が海外メディアから批判され、大きな議論を巻き起こした。これに対しても、情報発信の重要性が浮き彫りになったと、福田氏は指摘する。

 密室の船内での検査や感染拡大防止策には、医学的に諸説が存在する。また状況によっても解決策は多様であり、状況の変化によっても刻々と時間によって変化する。「例えば、広間と通路をつなぐドアについても、空気感染を減らすために閉めた方がいいという考え方と、接触感染が起きるからドアノブなどを触る機会を減らすために開けたままにした方がいいという考え方がある。対策本部をどこに置くべきかという点に対しても、感染を避けるために船外にある方が良いという考え方もあれば、船は一日一度移動させるのでいざというときのために船内にある方が良いという考え方もある」。

 「それぞれの事態に対して、対策にあたった担当者が現場で判断している。判断を下した論理からしたら間違っていない対策であることも多い。ただ、情報が共有されず偏った報道をされることで、『対策は誤りだ』と批判されてしまう現象が発生している」と現状を語る。

 こうした事態を避けるためには、あらゆる情報を積極的に公開していくことが必要となる。「緊急事態の際には、権力に情報が集中する傾向がある。そこで閉ざそうと思ってはいけない。今の時代はSNSやYouTubeで情報が個人により発信されることも多いので、なおさらだ」と語る。「日本の文化として『情報を秘密にした方が安全』という考えが根付いているが、政府の方針、具体的な対応はどのようなデータ、根拠に基づいているか、政府が情報公開とともに、具体策をオーソライズするリスク・コミュニケーションが必要だったと思います」と話している。

福田充(ふくだ・みつる)
日本大学危機管理学部教授。博士(政治学)。専門は危機管理学、リスク・コミュニケーション。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学、日本大学法学部教授を経て、2016年から現職。内閣官房・新型インフルエンザ等対策有識者会議の委員も務める。著書に『大震災とメディア~東日本大震災の教訓』(北樹出版)や『テロとインテリジェンス~覇権国家アメリカのジレンマ』(慶應義塾大学出版会)、『リスク・コミュニケーションとメディア~社会調査論的アプローチ』(北樹出版)など多数。

  
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