うつ病を主因として休職した社員は、職場に復帰しても50%が再発して再び休職してしまうという。2回目の復職では70%、3回目では90%といわれる。なぜ、休職すると抜け出せなくなるのだろうか。完治しない状態で復職するからか、会社側に受け入れるシステムがないからか。職場の産業医を務め、外来患者も診ている吉野聡医師に復職の問題と現代型うつについて聞いた。
吉野 聡(よしの・さとし)
1978年神奈川県生まれ。2003年筑波大学医学専門群卒業。07年同大学院人間総合科学研究科博士課程修了。同大学院生命システム医学専攻(社会医学系)助教を経て、12年産業医事務所を開設。専門は産業精神医学とメンタルヘルス関連法規。主な著書に『職場のメンタルヘルスの正しい知識』(日本法令)など。医学博士(筑波大学)、法務博士(成蹊大学)。
診る対象が異なる
産業医と主治医
――産業医と主治医、両面の立場で社員と患者に向き合っていられます。とくに休職者が復職する場合、主治医と産業医の判断が分かれることが多いと聞きますが、実態はどうなのでしょうか。
吉野:東京都庁、大企業からベンチャー企業まで28の職場で産業医を勤めています。業種、経営環境などが違えば、職場の考え方が異なります。多くの職場に関わることは、産業医としての質の向上につながると考えています。一方、週に一日は外来を受け持ち、直接、患者さんと接しています。この立場の違いは大きいといえます。
主治医であれば、患者さんにとって最良の方向を見出すことを第一に考えます。例えば診断書にも、出来る限り患者さんがうつ病を再発させないように、職場でのストレスを減らすこと、現在の職場は不適であり異動を勧める、などと書くことがあります。患者さんにとってベストな方法を探るから職場での配慮を求めます。
これに対し産業医の立場では、会社で働く全社員の健康を第一に考えなくてはなりません。主治医の求める異動が可能であればよいのですが、うつ状態であることを理由に異動に応じられることは少ない。うつを理由にした異動は、職場全体のバランスを考えながら慎重に行う必要があります。つまり、産業医と主治医は、診ている対象が違うということです。