――産業医は個ではなく全体を重視するのはわかります。異動も希望通りにできないのならば、会社としてうつ傾向の社員への配慮などは欠かせないと思いますが。
吉野:配慮は重要です。ただ、よく見られるのが配慮と甘やかしの混同です。配慮は必要ですが甘やかしは不要です。復職した社員に最初から100%の仕事を与えるのは無理ですので1カ月間は50%、2カ月目は70%と少しずつ増やしていく配慮はしなければいけません。ところが、再発を恐れ50%の仕事を長期間続けさせ100%の給与を支払うというのは甘やかしです。職場全体のバランスを崩します。
私は、どんなタイプのうつでも、3カ月は配慮するが4カ月目からは100%の仕事になることを復職の条件としています。うつ症状の社員に「頑張れ!」と言ってはいけない、と指導する話がありますが、これはあくまで病状が悪く、療養している人への話であって、復職者に対しては状況が違います。職場は頑張ることで給料をもらうのですから、頑張れない状況で復職してはいけないのです。もちろん「頑張れ」をどのように言うのか程度の問題はあります。復職者への配慮は必要ですが、頑張らなくても勤まる職場などないわけですから、それを無限大にしてはいけません。
現代型うつは
実存への不安が強い
――職場うつが増えています。この要因をどのようにみていますか。
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吉野:うつ病は、世相やその時代時代で良いとされる倫理観への過剰な適応が強く出てしまうところに原因があると考えています。中高年に多いタイプのうつの根底にあるのは、生存への不安です。会社から見放されたら生きていけないのではという不安です。会社に必要と思われる自分でありたいと思い一生懸命に過重労働を繰り返し、仕事を抱え込み過ぎ、対応しきれなくなり、うつを発症してしまう。従来型うつがこれです。
一方、現代型うつ、といわれる若者たちはあまり生存の不安を強く感じていません。外来で来る患者の中には仕事に執着しなくても、親が面倒をみてくれると話す方も少なくありません。しかし、彼らは職場では、うつ症状になる。この原因は生存ではなく、実存への不安です。生きていけることが保証され生存の不安が解消されると、人はより良く生きていきたいと思う。自分自身の存在価値を見出しながら仕事をしていく。個性を発揮したい、自分のやりたいことをしたいというのが重要なテーマになってきます。