「うつ病は心の病ではありません、脳の病気です。大事なことですのでよく覚えてください」と、うつ病をテーマにしたテレビ番組で心療内科医が語っていた。「脳の病気」だから薬で治しましょう、と言いたいのだろうか。薬効は否定しないが、脳の治療だけを当たり前とする考え方には異を唱えたい。そこで今回は、“呼吸法の伝道師”ともいえる体内対話の椎名由紀代表に、心身を健康に導く呼吸法とは何か。誰にでもできるが、意外にも知らなかった呼吸の仕方とそのエビデンスを聞いた。
椎名由紀(しいな・ゆき)
1975年北海道生まれ。早稲田大学第一文学部卒。第40代ミス東京第1位。10代の頃から続いた心身の不調を呼吸法で克服した経験を元に「ZEN呼吸法」を伝える活動を行う。早稲田大学レスリング部や大手企業のメンタル健康講師などを担当。東京を拠点に全国各地で体験教室を開催する。雑誌などでの特集も多い。著書に『呼吸ひとつで「怒り」「イライラ」がすっと消える本』(宝島社) 『呼吸美メソッド』(双葉社)など。
朝、元気スイッチが入る腹式呼吸
―― 心身が健康であれば、抑うつ状態に陥らない。もちろん他の病気にもなりにくいのはわかります。問題はストレスが多い現状で心身の健康をどうやって維持するかです。その答えが呼吸法の習得にあるということでしょうか。
椎名:呼吸は生きるため、肺に酸素を供給する動作です。みなさんは無意識におこなっているはずです。それを意識して姿勢と呼吸を調え腹式呼吸をすることで、不思議ですが、心が落ち着いてきます。「息」は「自分の心」と書くゆえんです。血行がよくなり、自律神経を活性化させ、固まった心身を緩めていきます。呼吸がもつパワーは集中力を高め、コミュニケーション力を向上させ、リラクゼーションとメンタル強化につながります。その効果は、科学的に実証されています。
一般的に腹式呼吸をすると副交感神経が優位になるのですが、確かに日中、交感神経が高まり過ぎてしまった時には効果があります。しかし、朝は真逆です。寝ているときは副交感神経が優位な状態が続いています。朝起きて腹式呼吸をすることで、自律神経自体が活性化するので交感神経が刺激され覚醒してきます。寝起きでも、シャキっとした状態になれます。これは元気レベルが向上していくということであり、元気スイッチがオンになると考えてください。低体温で、低血圧で悩んでいた私でしたが、今は朝から元気一杯です。毎朝、ZEN呼吸法をすることで毛細血管にまで血液が届くような温かさを感じることができます。