2024年12月22日(日)

Wedge REPORT

2012年3月19日

こちらの記事は、WEDGE2月号特集「『うつ100万人』」は減らない」の第2部に、最新の情報を加筆したものになります。

 「うつ100万人時代」のいま、企業に加えて、精神医療界の対応も急務だ。だが、クリニックが次々と開業し、新たな抗うつ剤も開発されているのに、患者数は減らない。なぜか。ある患者の治療ケースから、その理由を探った。

いい精神科医に出会うのは難しい

 都内在住で大手印刷会社勤務の斉藤誠一さん(50代、仮名)は4年前、職場の人間関係で悩み、朝起きるのが辛い日々が続いていた。ある日、妻に促されて地元の駅前クリニックを受診したところ、A医師にうつ病だと診断され、薬物療法中心の生活になった。

 クリニックには月2回通院した。帰宅途中に寄れる便利さもあったが、診察まで4時間待たされることもしばしば。しかも、「さんざん待ったのに診察時間はわずか5分で、聞かれることは『薬が効いたか効かないか』ばかり。『効かない』と答えると、どんどん薬が足された。別の医師の診察となることもあり、薬が変わることもあった。医師によってなぜこんなに言うことが違うのかと、疑問に思った」(斉藤さん)。

 なかなか治らないことに不安を感じた斉藤さんは都内にある病院に入院治療を考え、A医師に相談したら「あなたはそこまでじゃない」と言われ、結局5分診療と薬物療法の日々が続いた。

 「もうどうしていいか分からない」

 途方に暮れていた斉藤さん。心配した義姉が知り合いの医師を紹介してくれて、その縁で田島治・杏林大学保健学部教授に出会う。気がつけば、A医師の診察を受けてから約1年が経ち、6つの病院を渡り歩いていた。

 「A医師と違い、日常生活に関する質問が多く、私のことを理解してくれているという安心感があった。そして何より、減薬治療してくれたことで、自分が回復に向かっていることを日々、実感できた」(同)。半年後、念願の職場復帰を果たし、現在のところ、再発もしていない。斉藤さんは最後にぽつりと、こんな言葉を漏らした。

患者数増と抗うつ剤市場規模の拡大は奇妙に一致
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 「いい精神科医に出会うことがこれほど難しいとは思ってもみなかった」

 日本には精神科医が8000~1万人いるといわれる。だが、うつ病治療に関しては、斉藤さんのように「名医を求めてさまよう患者」が少なくない。

 病気の境界を広げる“疾患喧伝”という、製薬会社の販売戦略の関係性も指摘される。グラフのように副作用はあるが従来の抗うつ剤よりも安全性が高いとされるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が日本でも承認された1999年以降、市場規模拡大とともに患者数は急増中だ。SSRIは現在、うつ病治療で重宝されるが、服用の仕方次第で、他人への攻撃性を高めるといった副作用の問題がある。2009年5月には厚生労働省が医師や患者に注意喚起を行っている。


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