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2012年3月19日

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東大病院の誤請求事件

 通院治療の先にある入院治療にも、入院精神療法という先述の通院・在宅精神療法と同種の算定項目がある。これは精神科の収入の基礎になっている。

 東京都在住のある女性は、東京大学医学部附属病院に対し、09年4月から6月の入院時に算定された34回の入院精神療法(Ⅰ)は架空だとして、返還を求める訴訟を東京地裁に起こした。

 入院精神療法には、特別な資格である精神保健指定医が30分以上行った場合にのみ請求できる入院精神療法(Ⅰ)〔=360点〕と、そうでない場合の入院精神療法(Ⅱ)〔=150点〕がある。

 東大病院が証拠として提出した診療録には、ある指定医の署名で、「35分実施」「60分実施」などと34回の入院精神療法(Ⅰ)が記されている。しかし、女性はこの指定医とは一面識もなく、受けた診察は、別の研修医らによる非常に短い時間の問診程度のものだったと主張している。

 東大病院は裁判のなかで、「指定医の指示のもとに、(指定医ではない)他の医師が入院精神療法を施行していた」「算定方法の解釈を誤っていたものであり、殊更に不正請求を行ったものではない」と主張。東京地裁は1月19日、東大病院に対し、入院精神療法(Ⅰ)と(Ⅱ)の差額を女性に返還するよう命じた。

 指定医による入院精神療法Ⅰが新設されたのは96年のことだ。指定医が患者と直接対面していなくとも、その指示があればⅠを算定できると解釈していたなら、この女性に限らず、多くの患者に対しても同様の誤請求を行っていたことが推察されるが、編集部の取材に対する東大病院の回答は「一切答えられない」というものだった。

 判決の翌日、読売新聞の報道により、東大病院が同様の誤請求を多数行っていたことが明らかになった。指定医でない医師が行った面接を指定医が後から承認する形で(Ⅰ)を請求したり、30分未満でも請求したりしていた。10年9月までの1年間に算定した全患者563人分、計1034件の医療費を返還する手続きを取っているという。

 ただし、これはあくまで病院側の「自主的な」返還に過ぎない。返還される保険者も患者も、病院側が必要な返還を全て行ったかをチェックすることはできない。民法では不当利得の返還請求権の時効は10年と定められており、診療録の保存義務期間も5年間なのに、なぜ1年間に限って返還するのかも根拠がない。東大病院は単なる解釈の「誤り」としているが、ここまで多くの件数となると、組織的な請求ではなかったのかとの疑いも消えない。東大側は依然、一切の取材を拒んでおり、厚生労働省、地方厚生局による指導、監査が待たれるところだ。

 また、裁判で提出された病院側の資料によると、初診時、女性は「うつ病ではない」と繰り返し入院を拒否したが、家族の同意を取って医療保護入院とし、隔離の上、身体拘束を行った。鎮静効果が強い統合失調症向けの抗精神病薬の処方を開始し、その後約1カ月の間に、電気けいれん療法(ECT、3000点)を6回実施。日本の精神医療の中枢を担ってきた歴史がある東大病院は、この判断は医師の裁量権に属するものであり適切というのだろうが、女性は拘束やECTを受けたことに精神的苦痛を感じている。その妥当性については、複数の精神科医から疑問の声が挙がっている。

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