東欧で民主化革命が起きて30年が過ぎた。かつて旧ソビエトの衛星国だったポーランドやチェコなど東欧諸国の体制がドミノ現象のように次々と崩壊し始め、本家本元の旧ソビエトが崩壊するまでわずか2年半しかかからなかった。その最も大きな要因は旧ソビエトが改革に着手し、東欧諸国への統制を弱めたことにあった。
東側陣営の崩壊により、世界は米国一極支配の時代になったが、東欧を崩壊させた地政学的地殻変動が今、西側陣営に押し寄せている。米国の国際的影響力が低下していること、中国・ロシアという連帯した権力がユーラシアで台頭してきたことによって国際社会の力のバランスが崩れ、西側陣営の崩壊が始まっているのである。
象徴的なのが2019年12月、ロンドンで開催されたNATO(北大西洋条約機構)首脳会議だ。そこではNATOが「内憂外患」の状態に置かれていることが浮き彫りになった。
NATOにとっての「外患」は中国の欧州への影響力拡大であった。中国の台頭に対してNATOが警戒心を示すのは初めてであり、首脳会議後のロンドン宣言では、「中国の影響力増大と国際政策はNATOが同盟として取り組むべき機会と挑戦である」と表明した。これは中国の地政戦略「一帯一路構想」を意識したものだ。中国はチャイナマネーを世界中に展開させることによって世界経済を活性化させようとする平和的なものだと説明しているが、中国の影響力を地球的規模で拡大させようとする世界覇権の構想と見ることもできる。
この構想はユーラシアを陸路で横断する陸のシルクロードと、ヨーロッパと東アジアを海路で結ぶ海のシルクロードによって形作られ、この陸路と海路を結ぶのが欧州の港湾施設である。中国はすでにその要衝となるスエズ運河、ギリシャのピレウス港、イタリアのジェノバ港、トリエステ港に莫大な投資をして施設の使用権を獲得したほか、欧州内の10以上の港にも投資しており、これらの港を経由するコンテナの量は欧州全体の10パーセント以上を占めている。このままだとNATO諸国の海洋権益が損なわれることにもなりかねない、とNATOは警戒しているのだ
また、中国はロシアと連携しながら軍事力を欧州周辺で誇示するようになった。15年には地中海で、17年にはバルト海で、ロシアとの海軍合同演習を実施した。このように中国は軍事と経済の両面で欧州周辺での影響力を高めており、NATOは中国が欧州の軍事技術や知的財産、国家の重要なインフラを狙っているのではないかと懸念している。
一方、NATOの「内憂」も深刻である。その一つが、フランスのマクロン大統領の「米国に頼らないヨーロッパ独自の安全保障体制を」という主張だ。マクロン大統領はロシアに急接近し、昨年8月、プーチン大統領を自身の別荘に招いて会談し独自の外交を始めた。これに対して、米国のトランプ大統領は、「フランスほどNATOを必要とする国はない」と批判し、フランスを牽制した。