WEDGE REPORT

2019年9月30日

»著者プロフィール
閉じる

秋元千明 (あきもと・ちあき)

英国王立防衛安全保障研究所アジア本部所長

早稲田大学卒業後、NHK入局。30年以上にわたり軍事・安全保障専門の国際記者、解説委員を務める。2012年から現職。著書に『アジア震撼』(NTT出版)、『戦略の地政学──ランドパワーVSシーパワー』(ウェッジ)など多数。

 韓国が日本と結んでいたGSOMIA(軍事情報包括保護協定)を破棄したことによって、日本だけではなく米国政府も懸念と失望を表明した。韓国のこの突然の決定は単に日本の輸出管理の強化に対する韓国の報復でしかないのだろうか。その背景には、韓国の文在寅政権が持つ国家的野心が見え隠れしているように思えてならない。

朝鮮半島統一という国家的野心が見え隠れする文在寅大統領(YONHAP NEWS/AFLO)

 まず念頭に置きたいのは、GSOMIAは秘密情報を保全することを国と国が保証し合う協定であり、国家が所有する情報を無制限で共有することを決めたものではないということである。情報当局者間で必要と判断された情報に限って、情報を共有するものである。したがって、通称Five Eyes(ファイブアイズ)と言われる米国、英国、カナダ、豪州、ニュージーランドの5カ国が結んでいるUKUSA協定のように加盟国がデータベースにアクセスすることによって自由に各国の情報を閲覧できる仕組みにはなっていない。

 事実、日本が2016年11月にGSOMIAを韓国と結んで以来、これまでに交換された情報はわずか29件であり、平均して年間10件というのは情報協力関係と呼ぶにはかなり少ない数である。

 GSOMIAにかかわらず世界には各国の情報当局同士の協力関係は様々な形で存在しており、特にいわゆる西側各国の情報当局の交流は壮大なネットワークのように構築されている。共通の利益を守るためである。

 ところが、この世界の情報コミュニティーの中にあって、韓国の存在感はほとんどない。それは各国が韓国に求める情報が北朝鮮関連に限定されていることや、それ以外の一般的な国際情報を取得したり、分析する韓国の能力はそれほど高くないからである。

 それに対して、日本の情報収集能力は通信を傍受して解析する分野ではアジアではトップクラスである。具体的には、1979年2月、中国がベトナムに侵攻した際、中国人民解放軍の越境を真っ先に察知したのは日本の通信諜報であったと言われているし、83年9月、カムチャツカ半島付近の上空で韓国の大韓航空機が消息を絶った事件では、大韓航空機が旧ソビエトの空軍機によって撃墜されたことを最初に確認したのは米国でも韓国でもなく、日本の通信諜報であった。

 そして現代、日本は情報衛星という事実上の偵察衛星7基を保有、運用しており、単に通信情報だけでなく、衛星写真など画像情報の収集能力も大きく向上させており、東アジア全域で米国を情報面からも支援している。つまり、日本の情報組織は、朝鮮半島だけを相手にしている韓国とは違って、国際的なインテリジェンス網の一翼を担っている。

 そのため、最近では、Five Eyesの枠組みに日本も参加すべきだという意見や、米国と英国と連携し、新たなThree Eyes(スリー・アイズ)を創設すべきだという意見が情報当局者同士の間でしばしば議論されている。

 このようにGSOMIAは韓国にとって世界のインテリジェンス網にアクセスできる重要なパイプであったのに、それを自ら遮断するということは合理性を欠いた行為というしかない。

関連記事

新着記事

»もっと見る