2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年9月12日

 8月23日、韓国政府は、日韓秘密軍事情報保護協定(いわゆるGSOMIA:General Security of Military Information Agreement)を終了させる旨を日本政府に通告した。書面による通告から90日後、同協定は効力を失う。2016年11月23日にソウルで署名された同協定は、まる3年で終了することになる。 

(Evgeniy Skripnichenko/Nastco/Ket4up/iStock/Getty Images Plus)

 今回のGSOMIAの破棄決定を巡り、米国は韓国に対する批判を強めている。 米韓関係は、相互信頼に亀裂が入りかねない深刻な状況になっている。なお、日韓GSOMIAの破棄について、韓国のマスコミは、ハンギョレ紙等革新系のメディアは肯定的に捉え、保守系大手の朝鮮日報や中央日報等は批判的に報道している。

 GSOMIA破棄について、米国は相当怒っているようだ。当然であろう。韓国の決定を受けて、ポンペオ国務長官など国務省、国防省は強い「懸念と失望」を累次表明している。また、8月27日には、シュライバー国防次官補が韓国に対し「再考を望む」と述べ、韓国から米国に「事前通告はなかった」と発言した。同次官補は、8月28日、米シンクタンクCSISで講演し、「今回のGSOMIA破棄の決定は日韓だけではなく、アメリカの安全保障の利益にも悪影響を及ぼすと繰り返し文政権に伝えてきた」と述べた。これに対して韓国は強く反発している。また、文政権は破棄につき米国の理解を得ていたと対外説明したものの、米国から直ちに否定されている。米国の強い反対は当然予想されたことであった。文在寅政権は事態を十分に理解せず、対米関係を過少評価した。今や韓国は独自路線を歩むと言わんばかりであるが、それも虚勢に終るだろう。ボルトン大統領補佐官が訪韓した時の国防相や外相の発言を通じて、GSOMIAの維持が米国に伝えられたものと理解されたので、信頼の問題にもなる。更に不可解なのは、米国からの批判への対応に、大統領や長官は出て来ず、趙世暎外務次官や金鉉宗青瓦台安保室次長に任せていることである。破棄に舵を切らせた金鉉宗次長に責任を取らせているのかもしれない。金鉉宗らの感情的な、レトリックによる正面突破は逆効果だ。文在寅政権は政権内の統制を失いつつあるようにさえ見える。側近の汚職問題(娘の不正大学入学等)等もあり、政権は正に岐路に差し掛かっている。 

 今後、トランプ大統領の考え如何によっては、在韓米軍が問題にならないとも限らない。その間、日本は冷静に今までの立場を維持し、事態の悪化は避けつつ、今後の展開への対応を考えていく必要がある。 

 GSOMIA破棄(協定は11月23日午前零時に失効する)の撤回は、文在寅政権の面子もあり、余程のディールができない限り、難しいだろう。日本としては所謂徴用工問題の解決なくして解決はない。文在寅政権はもうすぐ 2年半を経過し、韓国政治のパターンである政権のレームダック化も始まる。来年4月には総選挙もある。そのため、反日、恐らく米国との緊張関係も続けるのではないか。残念ながら喜ぶのは中国や北朝鮮である。 

 文在寅の8月29日の発言には驚きを禁じ得ない。報道によれば、文在寅は同日の臨時閣議で、「日本は正直にならなければならない」、「日本がどんな理由で弁明しようと過去の歴史問題を経済問題に絡めたことは間違いなく、率直でない態度と言わざるを得ない」、「過去の過ちを認めることも反省することもせずに歴史をゆがめる日本政府の態度が、被害者の傷と痛みを深くしている」と述べたほか、竹島を自国の領土とする主張も変わっていない等と述べたという。これは事実を歪曲した、一国の大統領としてあるまじき発言である。残念ながらこういうことでは関係改善の兆しは見えてこない。 

 8月28日、趙世暎外務次官はハリス駐韓米国大使を呼び、日韓GSOMIA破棄への米国の失望表明は両国関係強化に役立たないと指摘し、その自粛を要請すると共に、協定終了決定は韓米同盟をさらに発展させていくという意思が反映されたもので、韓国が自らの国防力を備えるための努力の一環である点を明らかにしたという。米国が「生産的でない」とした「独島」(竹島)防衛訓練は、領土を防衛する目的で行われる定例訓練であると説明したという。しかし、韓国の外務次官が米国大使を呼び付けるというのは極めて異例であり、しかも韓国側の言葉はかなり高圧的で、大使はひどく不快そうだったと言われる。韓国のなりふり構わない対応は通常のやり方を超えており、米国の対韓不信を一層増大させているに違いない。

  
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