2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年8月8日

 7月1日、日本の経済産業省は、次のような発表を行なった。

 「経済産業省は、外国為替及び外国貿易法(以下、「外為法」)に基づく輸出管理を適切に実施する観点から、大韓民国向けの輸出について厳格な制度の運用を行います。」

 「7月4日より、フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の大韓民国向け輸出及びこれらに関連する製造技術の移転(製造設備の輸出に伴うものも含む)について、包括輸出許可制度の対象から外し、個別に輸出許可申請を求め、輸出審査を行うこととします。」
(参考:経済産業省「大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて」2019年7月1日

 すなわち、日本政府は、7月4日より、半導体とスマートフォンの材料に使われる3種類の特殊な化学物質の韓国への輸出を、より厳格に審査することになった。これらの物質及びそれに関連する技術は、防衛装備品(武器)の製造にも使用される可能性があるため、それらの日本企業から韓国への輸出を許可するかどうかを、個別に審査するというものである。

(ryooota/iStock)

 これに対して韓国は、これは、韓国内で判決が出された「徴用工」問題への政治的報復であり、自由貿易を標榜するWTO(世界貿易機関)の原則に反するものだと、WTOの一般理事会で議題にしたが、議長からは、「二国間協議で解決してほしい」と一蹴された。

 そもそも、この問題の背景には何があるのか。今回の問題は、1965年に日本と韓国との国交を樹立するために締結された「日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約」(日韓基本条約)と同時に締結された「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」(日韓請求権並びに経済協力協定)に対して、韓国が違反し、「徴用工」からの日本企業に対する賠償請求権を認めた韓国最高裁判所の判決を執行しようとしていることに始まっている。

 日韓請求権並びに経済協力協定の第1条には、日本から韓国に対して、3億ドル相当の無償援助と2億ドル相当の借款が供与されることが明記された。第2条には、「国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権は、(中略)…完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。」と記され、「同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする。」とされた。第3条では、協定に関する紛争は、外交的解決を図るものとされ、それでも難しい場合は、仲裁委員会に付託し、その決定に従う、と明記された。

 この協定で、韓国・国民の 請求権の問題が完全かつ最終的に解決されたと合意されているのに、 それに韓国側が違反している問題が、「徴用工」であり「慰安婦」である。これは、特定の協定についての違反問題である。「Pact sunt servanda」(合意は守られなければならない)の原則を守ることは、国家間の信頼関係の基礎である。この原則を守らないで、いかなる信頼関係もあり得ない。そうでないと、韓国と条約を結んでも意味がないことになる。 リベラルな国際秩序の主たる柱は国際法の尊重にあり、日本は国際法の遵守を求めている。その上、「徴用工」判決の原告は「徴用工」ではなく、 徴用制度ができる前に就職した普通の労働者である。

 条約の解釈について、当事者間で違いがある場合があるが、それを解決する手続きがこの協定の第3条に定められている。しかるに韓国側は、日本側がこの協定に従い求める協議に応じず、仲裁委員会についても、仲裁委員会の構成のための指名もしないでいる。 

 日本側が韓国に不信感を抱き、その輸出管理への不信に基づき、 機微な物資の輸出許可の付与を、個別審査を通じて行うとしたのは、妥当な措置である。 

 従来、日本は植民地支配に対する贖罪意識もあり、韓国の無理押しも容認してきたが、戦後70年以上が経ち、韓国も立派な国になった今、普通の関係にする時期であろう。

 韓国が、日韓請求権並びに経済協力協定を尊重した対応を打ち出すまで、日本はいまの姿勢を堅持していくべきであろう。日韓紛争を収めるためには、それを惹起した韓国が適切に対応すべきである。日本としては、原則を守るために多少の経済的不利益は我慢すればよい。日本はやむに已まれず、現在の対応をしているのである。

  
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