2024年12月2日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年4月1日

 韓国の文在寅大統領の北朝鮮に対する宥和政策の行きすぎに関して、最近、同盟国の米国内で懸念の声が上がっている。ポンペオ国務長官やボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)が、北朝鮮の非核化がなされるまでは国連制裁の手を緩めないと述べているのに対し、文在寅大統領は、北朝鮮に対する制裁を解除して南北協力を早急に進めたいようである。

(Jrcasas/Alefclipart/BOLDG/iStock)

 このような文在寅大統領の姿勢には、韓国内のメディアでも疑問を呈するものが出て来た。例えば、3月10日付のコリア・ヘラルド紙(韓国の英字紙)の社説がそれである。同社説は、文在寅は、南北協力や制裁解除に対する米国の懸念を直視し、より対米協力をするべきであると述べている。

 この社説は、常識的な正論を述べたものであるが、このような意見は、野党や大手メディア等の少数派である。文在寅政権は、必要な対北朝鮮の制裁解除を行い、金剛山観光、開城工業団地の再開や鉄道共同プロジェクトなどを促進させ、早期に北朝鮮の金正恩労働党書記長のソウル訪問を実現させたいと考えている。それ故、ハノイでの第2回米朝首脳会談が決裂に終わったことには、衝撃を受けたようだ。文在寅政権は、南北という狭い視野しか持たず、世界を知らない人々が多すぎるように見える。文正仁特別補佐官(延世大学教授)は英語も喋れ、世界のことも知っている面白い人だが、左派志向が強い。 

 文在寅政権に対する米国の態度が硬化していることは、コリア・ヘラルド紙の社説でも指摘されている。当然であろう。主たる理由は、韓国の南北融和一辺倒の立場と制裁解除の主張である。3月上旬に訪米した韓国の国会議長訪問団に参加した元野党大統領選挙候補の鄭東泳氏もペロシ下院議長等からいろいろ言われたことを明らかにしている。鄭東泳氏は、これは日本の工作の結果だと、日本を批判している。とんでもない話である。

 なお、文正仁大統領特別補佐官は、最近の講演会で、ハノイでの米朝首脳会談の失敗の原因は、米国と北朝鮮、そして日本にあると述べたと言われる。一方、今、ワシントンには、「韓国責任論」といった感じもあるようだ。昨年3月、金正恩委員長の非核化の意図をいわば「保証」し、首脳会談を米国に働きかけたのは韓国だった。が、注意深い検討もなく、それに飛びついたのはトランプだったことも事実である。 

 文在寅大統領は、最近、内閣改造を断行した。南北関係を所掌する統一部長官の趙明均氏を替え、金錬鉄統一研究院長を後任に指名した。同人は、極端な考えや発言で知られ、承認公聴会はもめるであろうが、それでも文在寅は強行任命するだろう。大手メディアは康京和外相、鄭義溶安保室長こそ交代すべきだと主張している。 

 国連制裁は対北朝鮮交渉の重要な梃子であり、大事にしていかなければならない。米韓作業部会でも、韓国は、開城団地再開などの問題を提起する。3月12 日、国連制裁委員会の年次報告書が公表されたが、制裁の確実な実行こそが重要である。 

 米韓両国は、3月2日、合同軍事演習「フォール・イーグル」と「キー・リゾルブ」の廃止を発表した。昨年夏に実施を取りやめた「乙支フリーダム・ガーディアン」を含めて、三大軍事演習がすべて打ち切られ、新たな小規模の演習に代わることになった。トランプ大統領は、国防省の説明と違い、理由に予算節約をあげている。が、米国が只でかかる大きな譲歩をするのは良くなかったのではないか。一方的廃止ではなく、少なくとも何らかの約束事にして、北朝鮮から相応の措置を取るべきではなかったか。最近の東倉里実験場の再整備のように、一方的措置は撤回可能である他、米国がそれをやれば、北朝鮮は益々一方的措置で非核化を済まそうとするであろう。
 

  
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