2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年3月14日

 2019年2月27日から28日まで第2回米朝首脳会談がヴェトナムのハノイで開催された。それに関して、取り敢えずの印象を書いておきたい。それは、トランプ政権の外交の失敗ではないか、ということである。両首脳が、合意文書に署名することを止め、席を立ったこと自体が失敗だったというのではない。ただ、準備不足のまま首脳会談に臨み、北朝鮮の非核化を進める具体的合意に何も至らないまま、不必要なパフォーマンスをしなければならなかったことが失敗である。

Wedge

 昨年6月12日にシンガポールで開催された、トランプ大統領と金正恩朝鮮労働党委員長との第1回米朝首脳会談は、国交のない敵対関係にある首脳同士の初めての会談ということで、大きな注目を浴びた。北朝鮮の「完全かつ検証可能で不可逆的非核化(CVID)」を目指すことが米国の目的である。しかし、この8か月間、ミサイルや核実験は行われていないものの、既にある核やミサイルを破棄する工程は進展を見なかった。その困難に突破口を開こうと、今回の第2回米朝首脳会談が行われたわけだが、結果は物別れであった。

 今回、異例なことに、北朝鮮メディアは、金正恩がピョンヤンを列車で出発する場面からその動向を綿密に報道して来た。金正恩が、制裁の一部解除や経済支援等の土産を手にして凱旋することを想定していたに違いない。労働新聞は何とか面目を保つ報道をしているらしいが、金正恩の心中は判らない。

 1月31日、米国のビーガン北朝鮮担当特別代表は、スタンフォード大学で演説を行った。これによると、昨年9月の南北のピョンヤン宣言に「北朝鮮は米国が6・12朝米共同声明の精神に沿い、相応の措置を取れば、寧辺の核施設の永久的廃棄などの追加措置を引き続き講じる用意があると表明した」とあるのを手掛かりに、寧辺のみならずプルトニウムの再処理施設とウランの濃縮施設の全部の廃棄との引き換えに、経済制裁の一部解除など、何かしらの見返りを差し出す取引を、事務レベルおよび閣僚レベルの協議を通じてℱ追求して来たことが明らかである。

 しかるに、2月28日のトランプ大統領の記者会見によれば、金正恩委員長が寧辺の施設の廃棄と引き換えに経済制裁の全面解除を要求したことが、合意に至らなかった理由だと言う。今回の首脳会談に先立ち、両国は十分に協議をして来たはずなのに、どうしてかくも大きな認識のギャップが生じたのか、理解出来ない。

 他方、3月1日に記者会見した北朝鮮の李容浩外相は、全部の制裁解除は求めていない、一部の解除を求めただけだと反論したが、そうだとすれば、実際何があったのか不明である。


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