2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年3月14日

 両国の立場の隔たりが明らかであるのに、トランプ大統領が自身の交渉力を信じて、あるいは成果欲しさに、首脳会談を開催したのだろうか。真意のほどは分からないが、いずれにしても、このような首脳会談はやるべきではなかったということである。

 核とミサイルの実験がなければそれで結構、北朝鮮の核の脅威は無くなった、非核化は急がない、金正恩と恋に落ちたなどとトランプはこのところ北朝鮮に耳触りの良い発言を繰り返して来た。米国と北朝鮮の円滑な関係の維持と朝鮮半島の平和の構築が先で、「最終的で完全に検証された非核化(final, fully verified denuclearization)」は後回しで構わないという印象を与える発言もして来た。このことが、トランプは組み易い人だとの印象を与え、金正恩の判断を狂わせたのかも知れない。

 今後の問題は、米朝間の外交は、ここ当分は動かないであろうということだ。北朝鮮の核とミサイルの脅威は、基本的には何も変わっていない。脅威は温存され続ける。その間、北朝鮮がどう動くかは予測の限りでない。金正恩は核とミサイルの実験を再開することはしないと約束したらしい。しかし、経済制裁からの脱却の必要性をどの程度切実に感じているかに左右されようが、いずれ再開するかも知れない。1月1日、金正恩は、新年の辞の中で、米国が何かを一方的に押し付けることを試み、制裁を課すことに固執する場合には「新たな道を見出すことを余儀なくされよう」と警告している。

 ちなみに、米国の元NSCアジア部長のヴィクター・チャは、2月28日付のニューヨーク・タイムズ紙に寄稿し、悪い合意よりは、合意無き方がましと述べつつも、北朝鮮は、専門家によれば、2つの首脳会談の間にも、原子爆弾8個分にあたる核物質を生産しているという報告を例に、北朝鮮の核とミサイルの脅威は、不確実性を増していると述べている。

 日本にとって、北朝鮮問題は、核・ミサイル・拉致の包括的解決を目指すものであるが、第2回米朝首脳会談の決裂を受け、今後、どのようなアプローチをして行くべきか、新たな戦略が必要になってくるかもしれない。
 

  
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