7月に日本を訪れた韓国人が前年同月比7.6%減の56万1700人となった。今年に入ってからの韓国ウォン安を反映して1〜6月も3.8%減だったが、7月はさらに大きな落ち込みとなった。同月1日に発表された半導体素材の輸出手続き厳格化など規制強化への反発を反映したものだ。日本の地方都市を中心とした航空路線の縮小や休止も相次いでいる。韓国ではユニクロなど日本ブランドの売り上げも落ち込み、韓国人経営の日本食レストランにまで打撃は及ぶ。韓国での日本製品不買運動は過去25年間に4回の「不発の歴史」(『韓国の「日本」不買運動、不発の歴史』参照)を繰り返していたのに、今回はなぜ「成果」を挙げているのだろうか。
日本ビールは実質的な大幅値上げ
不買運動の影響については、すでに多く報じられている。輸入ビールの国別順位で今まで不動の1位だった日本が3位に落ち込んだとか、ユニクロが閑散としているといったものだ。中には商品の棚から日本ビールが消えたなどという報道もあったが、ソウルに来て確認してみると、商品棚から撤去した店が多いわけではなかった。
ただコンビニの棚を見て、「これじゃ売れないわ」と思わされた。日本のビールだけ実質的に値上げされていたからだ。
仕組みはこうだ。韓国のコンビニでは各国の多種多様なビールが販売されている。輸入ビールの多くは500ミリリットル缶1本で4000ウォン(約350円)前後の価格が付いているのだが、実際にこんな値段で買う人はいない。どのコンビニでも「4本で1万ウォン(約880円)」というキャンペーンがいつも行われているので、普通の人は4本単位で買っていく。ヱビスビールやサントリー・プレミアムモルツなども4本1万ウォンなので、「日本よりお得」だったのだ。ところが、今回の騒動を受けて各社がキャンペーン対象から日本のビールを外した。今まで「4本1万ウォン」で買えていたのが、「1本4000ウォン」になったということだ。これで売り上げが落ちなければおかしい。
それにしても不買運動が「成果」を挙げるのは、きわめて異例だ。ソウルでさまざまな人に理由をどう考えるか聞いてみた。
今までの不買運動が不発に終わっていた理由については、ほとんどの人の見解が一致した。慰安婦問題や教科書問題などでの日本の対応への反発というのは政治的なものであって、一般国民からみれば「自分たちの問題」とは感じられなかったということだ。だから、運動団体が派手なパフォーマンスをしても一般国民は冷めた目で見ていた。ところが今回は違うのだ。
私が聞いた意見で、それなりに納得できた見解は四つあった。(1)韓国の主力産業を標的にされたことで自分の生活にも悪影響が出るのではないかと心配した、(2)韓国人は徴用工問題に関心を持っていないので、日本の措置は寝耳に水だった。理由もわからず経済制裁をされたと反発した、(3)日本が力づくで韓国を抑え込もうとしてきたと感じた、(4)ロウソク集会で朴槿恵元大統領を弾劾に追い込んだ成功体験とSNSによる情報拡散——といったものだ。どれか一つが決定打というより、こうした要素が複合的に作用したということなのだろう。
韓国人が考える「今までとは違う」理由とは
一つずつ見てみよう。韓国経済への攻撃だと受け止めたからという(1)は理解しやすい。韓国の主力産業である半導体産業が揺らげば、もともと悪くなっていた景気がさらに冷え込むだろう。そうなれば自分の生活にも悪影響が及ぶと考えれば、怒るのは当然だ。
韓国人にとって寝耳に水だったからという(2)は説明が必要だろう。日本では大きく報道され続けてきた徴用工問題だが、韓国では大きな関心を持たれていないのが実状だ。徴用工訴訟の原告代理人を務める弁護士にも会ったが、彼の口からは今になっても「韓国人は強制動員(徴用工)問題に関心を持ってないから」というぼやきが出てきた。実際、8月15日にソウル市役所前広場で行われた徴用工問題の早期解決を訴える集会の参加者は600人ほどにすぎなかった。徴用工問題で日本がいらだっていて日韓関係が悪化しているということを知らなければ、日本が突然、理不尽な攻撃をしてきたと見える。しかも理由を聞いても「何それ?」という感じなのだ。