日本政府による化学製品の韓国向け輸出手続き厳格化に、韓国で反発が広がっている。それは不思議ではないが、反発ぶりを伝える報道には注意すべきものがある。市民団体による日本製品の不買運動だ。日韓関係が悪化した時の定番メニューで、今回も既にソウルの一部スーパーで日本製ビールが撤去されたとか、日本旅行を自粛したとアピールするネット投稿があったなどと報じられている。記事で簡単に触れざるをえない場合もあるのだが、正面からまともに取り上げるのは考えものだ。私の知っているだけで過去25年ほどの間に4回の「不買運動」が組織されたが、本当に日本製品の売り上げが落ちたことなど皆無だからだ。
私は占い師ではないので、今回も同じだと断言はしない。それでも、今まで1回も成功していない運動だということは知っておいた方がいい。運動する人たちは、運動そのものを楽しんでいるか、「日本にガツンと言ってやった」というポーズを見せることに意義を見出しているのではないか。そう思えるのである。
今回の不買運動がどう展開するか考える材料の一つとして、過去にどんなことがあったのか知っておいてもいいだろう。
過去25年間に「成果なし」4回
過去25年間に日本製品の不買運動が行われたのは、戦後50年の1995年▽「新しい歴史教科書をつくる会」の中学校歴史教科書が問題となった2001年▽島根県が「竹島の日」条例を制定した05年▽安倍政権が島根県での「竹島の日」式典に内閣府政務官を派遣した13年——の4回だ。時系列を追って、どんなことがあったのか振り返ってみたい。私は、95年以外の運動はすべてソウルで見ていた。95年の状況は後に取材した。
95年の不買運動は「日本製たばこ」を対象としたものだった。韓国では88年に外国製たばこの輸入が解禁され、90年代半ばには市場シェアが1割ほどにまで伸びていた。これに反発した葉たばこ農家を中心にまずは「外国製たばこ」不買の呼びかけが始まったようだが、そのうち輸入たばこの代表格としてマイルドセブンが狙い撃ちされるようになった。この年はちょうど韓国から見れば植民地支配から解放されて50年という節目の年で、金泳三大統領が「歴史立て直し」を叫んでソウル都心にそびえていた旧朝鮮総督府庁舎を解体するという出来事もあった。そうした社会的雰囲気の中で日本製たばこが標的になったのだろう。
この時は市民団体だけでなく、新聞やテレビも参加した一大キャンペーンが繰り広げられ、商店には「日本製たばこ販売しません」と張り出された。ソウルの日本大使館前では、大量のマイルドセブンを燃やす「火刑式」という定番のパフォーマンスも行われた。
この時、韓国語を自由に話す大使館の若い日本人職員がマイルドセブンを買おうとしてみたところ、韓国人客と勘違いした商店主から「あんたは愛国心のかけらもないのか! 日本のたばこボイコットって、テレビでやってるだろう」と説教されたものの、最後には「はい、これ」とワンカートン渡されたという。他にも「店の奥からすぐ出てきた」という人は多いが、「買えなかった」という話を聞くことはできなかった。空港の免税店では、マイルドセブンが飛ぶように売れて品切れになってしまったという。
結局、この年のマイルドセブンの韓国での売り上げは順調だった。韓国政府の統計では、マイルドセブンライトのシェアは前年の3.5%から5.7%に躍進し、韓国製を含む全銘柄の中で6位に食い込んだ。