韓国国会の文喜相議長が米ブルームバーグ通信とのインタビューで、天皇陛下が元慰安婦の手を握って謝罪すれば「その一言で問題は解決する」と述べた。河野太郎外相はこの発言に対し「(慰安婦問題は)日韓合意で完全、最終的に決着したと考えている。韓国側も特に再交渉その他を求めていないとのことなので、しっかりとした正しい認識で発言をしてほしい」と不快感を表明した。
近年、よく見る光景だが……
菅義偉官房長官によると、外交ルートでの抗議に対して韓国側は「早期の日韓関係改善を願う思いが出たもので、報道のされ方は文氏の本意ではなかった」と説明したという。韓国の外交当局は、なんとか火消しをしたいと考えたのだろう。ところが聯合ニュースによると、文議長はさらに訪問先の米国で「日本の責任ある指導者が、慰安婦のハルモニたちの納得できるような心からの謝罪をすることが優先されなければ」と語ったという。天皇を「指導者」と思っているような節があるが、その程度の浅い理解から出ている発言ということだ。
最近の日韓関係を見ていれば想像のつく展開だが、安倍晋三首相は12日の国会答弁で「発言を読んで本当に驚いた。強く抗議をするとともに謝罪と撤回を求めた」と語った。これに対し、同日の記者会見で「謝罪するよう議長に勧めるのか」と聞かれた韓国外務省の報道官は直接の回答を避け、対応に苦慮していることをうかがわせた。
日韓関係では近年、こうした光景を見ることが多くなった。それは「進歩派の文在寅政権だから」とか「右派の安倍晋三政権だから」ではなく、ここ四半世紀ほどで起きた両国関係の構造的変化を反映したものだ。一部の人が語る「文政権が終わりさえすれば」「安倍政権はひどすぎるから、次になれば」というのは、根拠のあやふやな希望的観測でしかない。政治的な関係は一時的なアップダウンを繰り返すものだから、政権が変われば多少の変化は出てくるはずだ。ただし、現在の日韓関係はかつてとは質的に変わっているという根幹は変わらない。構造的変化を踏まえたうえで双方が賢明なアプローチを取らなければ、本質的な関係改善は難しいように思える。
もちろん長期的に見れば落ち着きを取り戻すだろうが、それには数年という単位ではない長い時間が必要かもしれない。昔の構造が頭にしみついた古い世代の意識に問題があるので、先入観を持たない若い世代の交流が大切になる。ただ現時点でも構造的変化の実相を知ることはできるし、そうした知識を持てば適切な対処をできるかもしれない。韓国の国会議長による信じがたい発言の背景にある日韓関係の構造的変化とは何か、数回に分けて改めて考えたい。