韓国の「読み方」

2019年8月22日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

 日本が力づくで韓国を抑え込もうとしたという(3)は、青瓦台(大統領府)や各省庁、外交専門家の間で広く共有されている。韓国が経済的な力を付けて日本をキャッチアップし、今や日本を追い越そうとしているので、今のうちに韓国をたたいてしまえというのが日本の隠された思惑だという見立てだ。

 日本政府の発表直後に私が日本の朝鮮半島専門家たちと話した時も、「官邸は力づくで韓国を屈服させようとしているのではないか」という見方は出ていた。私も「力づく」という考え方には同意するものの、この「力づく」論には日韓で危険なずれがある。私を含めた日本の専門家たちは「官邸は韓国の国力を見誤っている。韓国が弱小国だった昔のイメージを引きずったまま、簡単にギブアップさせられると考えたのではないか」と危惧したのだ。韓国側が考えているように、「韓国に抜かされそうだから今のうちに」という感覚は日本側に見られないように思う。

 ロウソク集会の成功体験という(4)は、朴前大統領の弾劾に成功した高揚感を引きずっている。文在寅政権の支持層は、市民一人ひとりが参加したロウソク集会の盛り上がりによって弾劾を成功させ、政権を奪取できたという感覚を持っている。だから今回も、一人ひとりが参加する不買運動によって日本への反発を表現できると考えたというのだ。ここ数年のSNSの爆発的普及がこうした動きを後押しした。

インスタに上げられない「日本旅行」なら行かない

 さらに付け加えるならば、日本以上に強い韓国社会の同調圧力がある。

 ソウル市南部の繁華街にある日本食レストランでは「接待や会合といった予約が入らなくなったのが痛い。売り上げは2割くらい落ちた」と嘆いていた。幹事としたら「このご時世に日本食レストラン?」と言われたくないのだ。この店では、それまで人気だったプレミアムモルツの生ビールも注文が激減したという。韓国人経営者は「周囲の顔色をうかがっている感じ。個室の客はプレミアムモルツを注文する」と話す。

 日本への旅行ではインスタグラムの影響も語られている。若い人たちは旅行先でインスタに写真をアップすることを楽しみにしているが、日本旅行で「楽しかった」という写真はアップしづらい雰囲気だ。それだったら他の国を旅行しよう、というのだ。40代の韓国紙記者は「40代以上の人で日本旅行を取りやめたというのは不買運動だろうけれど、20代や30代はインスタが最大の理由だろう」と話していた。

 成田、羽田、関西、中部を除いた日本の地方空港の国際線利用者数(2018年)は、日本人201万人に対して外国人835万人だった。そして昨年の外国人観光客の4分の1は韓国人。日本の観光業界関係者は「東京では分からないかもしれないが、地方の観光業界の韓国への依存度はとても高い。特に韓国人客の比率が高い冬場の九州観光には打撃だ」と悲鳴を上げる。

 地方都市に就航してきたのは、経営体力の弱い韓国のLCCが多い。観光業界関係者は「いったん路線休止となったら復活させるのは至難の業。足がなければ観光客が来るはずもない。便数減少などでとどまっている間に、なんとか状況が好転してもらえないと」と話していた。

 韓国では行きすぎた反日への批判も強まっており、不買運動も長続きはしないだろうと話す人も多い。個人的に日本への嫌悪感を示す人が多いわけでもない。それでも日韓の外交的摩擦を打開する展望は見通せず、不買運動の影響も今度ばかりはどれくらい続くか予測が難しそうだ。

  
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