西日本を直撃した台風10号が日本海に抜けた8月16日朝、北朝鮮は日本海に向けて飛翔体2発を発射した。
安倍首相は「わが国の安全保障に影響はない」と黙認に近い姿勢を示した、以前の激しい非難とは大きな違いだった。
北朝鮮による一連のミサイル発射実験は7月以来、6回。この間、首相の抑制的な反応は一貫している。米韓合同軍事演習をけん制するのが狙いで日本が標的ではないとみられることや、トランプ米大統領が、ICBM(大陸間弾道弾)以外なら容認するという方針に大転換したことなどが背景にあるのかもしれない。
しかし、先方の狙いはどうあれ、短距離ミサイルが日本に大きな脅威をもたらすことを考えれば「影響なし」というのは不可解というほかはない。
何の思惑あってのことか。
首相の最近の発言、北朝鮮が対日批判を控えていることなどを思い起こし、双方によるシグナルの交換、水面下での接触が何らかの形で進展していると推測すれば平仄が合うかもしれない。日朝関係の進展への動きが、表面化する可能性がある。
一昨年のコメントとは雲泥の違い
16日のミサイル発射はいずれも午前8時過ぎ、東部の江原道通川付近から強行された。高度30キロで、東方向に約230キロ飛行、日本海に落下した。
安倍首相は同日「わが国の安全保障に影響を与えるものではない。引き続き十分な警戒体制のもと米国などど連携しながら国民の安全を守る」とコメントしたあと、国家安全保障会議などを開くこともなく、午後にはさっさと山梨県の別荘に出かけてしまった。
今回の一連の発射は7月25日から始まったが、首相の発言を、北朝鮮が毎月のようにICBM(大陸間弾道弾)を含むミサイル実験を繰り返していた2017年当時のそれと比較してみよう。
今回同様、短距離弾道ミサイルが発射された同年5月14日。この時は北朝鮮の西岸から発射、高度2000キロで30分飛行、北東海岸400キロの日本海に落下した。日本の排他的経済水域(EEZ)内ではなかったものの、首相は記者団に「断じて容認できない。わが国に対する重大な脅威であり、国連安全保障理事会の決議に明確に違反する」と強く非難。北京の大使館を通じて北朝鮮側に厳重に抗議した。翌週、同月21日の発射の際には、「国際社会の平和的解決に向けた努力を踏みにじるものであり、世界に対する挑戦だ」と口を極めての糾弾を繰り返した。
短距離ミサイル発射という同じ状況の下であることを考えれば、今回の「わが国の安全に影響を与えるものではない」というの発言との相違は際だつ。トーンダウンなどというものではなく、あたかも別人が全く異なった好況でコメントしているような印象すら受ける。
こうした政府の動きに対して自民党は懸念を隠さず、8月16日、党本部で開いた北朝鮮核実験・ミサイル問題対策本部の会合で本部長の二階俊博幹事長は、「政府や米国は静観の体だが(北朝鮮が)着々と性能実験を進め完成度を高めていると判断せざるをえない。看過できない」と強く危惧、政府の対応を疑問視した(8月16日づけ産経新聞)。同日付けの産経新聞は「北挑発 緊張欠く日本」と政府を批判的に報じた。