2024年12月22日(日)

韓国の「読み方」

2019年9月13日

曺国氏の法相任命強硬が文政権弾劾へつながるとは考えにくい(YONHAP NEWS/アフロ)

 「私は文在寅(ムン・ジェイン)大統領を支持しているけれど、曺国(チョ・グク)氏の法相任命には反対だ。でも私の周囲には政権支持で、任命にも賛成という人ばかり。もう嫌になってニュースも見ないようにしているよ」

 文大統領が側近である曺氏の法相任命を強行した今月9日、ソウルの大学で社会学を教えている旧知の韓国人大学教授に電話すると疲れた声が返ってきた。もともと進歩派の人だから付き合っている人には政権支持者が多いのだが、曺氏の話題になると意見が合わなくて気まずい思いをするのだという。

 このひとことに韓国社会の現状は凝縮されている。私の知人のような人は少数派で、政権を支持する人たちは曺氏任命を歓迎し、不支持の人は反発する。8月末から9月上旬にかけて何回も行われた世論調査では、政権を支持する人の9割が任命賛成、不支持の人の9割超が反対という結果が続いた。曺氏の娘が大学や大学院に不正入学した疑惑に対して怒っている若者は多いけれど、その怒りを全国民が共有しているわけではない。

朴槿恵弾劾の引き金は…

 日本のメディアでは「韓国世論は入試不正にとても敏感で、朴槿恵前大統領の弾劾にもつながった」と言われることがある。「だから今回も、もしかすると」と続くことも多い。文政権が早く終わってほしいという願望を込めての言葉のようにも見える。だが現実は、前述した通りである。曺氏の任命強行は、世論が反対一色ではないことを見切った上でのことだ。文政権下で深刻化している韓国社会の分断をさらに悪化させ、将来に禍根を残すだろうが、そのことは考慮されなかったようだ。

 しかも、朴氏弾劾についても実際には入試不正が引き金を引いたわけではない。もちろん入試不正に対する若者や父母世代の反発は強かった。ただ、朴氏の支持率急落を決定的なものにしたとは言えなかったのである。韓国人でも最近は「入試不正が大きな契機だった」などと言う人がいるようなので、その点をきちんと振り返っておこう。

 朴氏弾劾につながる疑惑の報道が始まったのは2016年7月末。当初は財団設立を巡る疑惑だったが、それほど大きなニュースではなかった。9月に入ってから、この疑惑と関連して親友の崔順実(チェ・スンシル)被告の名前が浮上する。9月28日には、国会で野党議員が崔被告の娘が名門・梨花女子大に不正入学したという疑惑を追及。若者や父母世代は怒ってデモなどを始めたが、政権支持率に与える影響はそれほど大きくなかった。

 韓国ギャラップ社の調査では、朴政権の支持率は4月ごろから30%程度になっていた。任期4年目半ばの大統領としては特に珍しくない水準だった。そして、入試不正が表面化した前後の支持率を見ると、9月23日31%、30日30%、10月7日29%と横ばいである。入試不正を含む疑惑報道が激しさを増したことで支持率は徐々に低落するが、それでも10月21日には25%で踏みとどまっていた。


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