空気を一変させた「文書流出」報道
状況を一変させたのが、中央日報系のケーブルテレビ局「JTBC」が10月24日夜のニュースで大統領の演説草稿を崔被告に見せていたと報じたことだ。保守系紙・朝鮮日報が翌25日朝刊にJTBC報道を受けた社説を掲載し、「封建時代にもありえなかったことが起きているというのか」と嘆いた。時間的に考えれば、社説を急きょ差し替えたことになる。他社が夜のニュースで流した特ダネのために社説を差し替えるなどというのは、常識では考えられない対応だ。
朴氏が25日に演説草稿を崔被告に見せていたことを認めると、朝鮮日報は26日付朝刊に再び社説を掲載した。タイトルは「恥ずかしい」という一言だけ。社説は「朴大統領はいまや国民を説得しうる最小限の道徳性を失い、権威は回復が難しいほどに崩れた」と断じ、「多くの人々がいま、大韓民国の国民であることが恥ずかしいと言っている」と締めくくった。
そして支持率は急落した。この問題が動いている時期と調査期間が重なった韓国ギャラップ社の28日発表分は前週比8ポイント減の17%、1週間後の11月4日には5%という前代未聞の数字になった。後に100万人ともされる規模にふくらむこととなる、朴槿恵退陣を求める「ロウソク集会」は10月29日に始まった。このニュースが分水嶺となったことは明白だ。
日本人には理解しづらい状況だった。流出を指摘されたのは、演説草稿や外国使節を迎える時の応答要領といった文書が中心で、南北秘密接触に関する文書と言われるものも「秘密接触を行った」と書かれていた程度。日本外務省の韓国担当者と話をしても「演説草稿を友人に見てもらって意見を聞くことが、それほど深刻な問題だろうか」と首をひねっていたのである。私も当初は、なぜこれほど激しい反応が出てきたのか理解できずにいた。
その後に取材を続けてわかったのは、