韓国の「読み方」

2019年9月13日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

空気を一変させた「文書流出」報道

 状況を一変させたのが、中央日報系のケーブルテレビ局「JTBC」が10月24日夜のニュースで大統領の演説草稿を崔被告に見せていたと報じたことだ。保守系紙・朝鮮日報が翌25日朝刊にJTBC報道を受けた社説を掲載し、「封建時代にもありえなかったことが起きているというのか」と嘆いた。時間的に考えれば、社説を急きょ差し替えたことになる。他社が夜のニュースで流した特ダネのために社説を差し替えるなどというのは、常識では考えられない対応だ。

 朴氏が25日に演説草稿を崔被告に見せていたことを認めると、朝鮮日報は26日付朝刊に再び社説を掲載した。タイトルは「恥ずかしい」という一言だけ。社説は「朴大統領はいまや国民を説得しうる最小限の道徳性を失い、権威は回復が難しいほどに崩れた」と断じ、「多くの人々がいま、大韓民国の国民であることが恥ずかしいと言っている」と締めくくった。

 そして支持率は急落した。この問題が動いている時期と調査期間が重なった韓国ギャラップ社の28日発表分は前週比8ポイント減の17%、1週間後の11月4日には5%という前代未聞の数字になった。後に100万人ともされる規模にふくらむこととなる、朴槿恵退陣を求める「ロウソク集会」は10月29日に始まった。このニュースが分水嶺となったことは明白だ。

 日本人には理解しづらい状況だった。流出を指摘されたのは、演説草稿や外国使節を迎える時の応答要領といった文書が中心で、南北秘密接触に関する文書と言われるものも「秘密接触を行った」と書かれていた程度。日本外務省の韓国担当者と話をしても「演説草稿を友人に見てもらって意見を聞くことが、それほど深刻な問題だろうか」と首をひねっていたのである。私も当初は、なぜこれほど激しい反応が出てきたのか理解できずにいた。

 その後に取材を続けてわかったのは、本当に問題とされたのは崔被告という人物のまとうイメージだったということだ。学もなく、公的役職に就いているわけでもない、ただの中年女性。しかも故人となっていた父親は、独裁者の娘だった若き日の朴氏に接近して権勢を振るっていたことで知られる新興宗教の教祖だ。儒教の影響が残り、知識人による支配を当然視する韓国社会では崔氏のあやしげなイメージは受け入れ難いものだったのだろう。私は当時から、日本人の専門家とは「崔被告がソウル大教授だったら、ここまでの問題にはならなかっただろうに」と話していた。

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