WEDGE REPORT

2020年1月31日

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秋元千明 (あきもと・ちあき)

英国王立防衛安全保障研究所日本特別代表

早稲田大学卒業後、NHK入局。30年以上にわたり軍事・安全保障専門の国際記者、解説委員を務める。2012年から現職。著書に『アジア震撼』(NTT出版)、『戦略の地政学──ランドパワーVSシーパワー』(ウェッジ)など多数。

東アジアにも波及する
西側陣営の瓦解

 米国の一極支配が徐々に衰退し、歴史が無極の時代に向かって動き始めたことを各国は敏感に感じ取り、それぞれの国益を守るため新たな生き方を模索し始めているのである。

 こうした現象はユーラシア大陸の東に位置する東アジアにも当然波及する。韓国の同盟からの離反である。韓国の現在の繁栄は、安全保障を米国が提供し、莫大な経済援助と豊富な技術支援を日本が提供したことにより実現したものだ。それなのに韓国は従軍慰安婦や徴用工といった、すでに政府間で合意し、解決したはずの歴史問題を再び持ち出し、日本への非難を緩めようとはしない。また、友好国であるはずの日本の自衛隊の偵察機に兵器システムのレーダー電波を照射したりして日本に対する敵意を露わにしてきた。

 これでは日本政府の韓国への信頼が揺らぐのは当然であり、日本政府は戦略物資の輸出にあたって韓国に対する優遇措置を撤廃し、通常の国と同じように対応することにした。すると、韓国は特別扱いしてもらえないことに憤激し、なんと日本との間で結ばれているGSOMIA(軍事情報包括保護協定)を破棄することを決定した。さすがに、それまで静観していた米国も業を煮やし、強い圧力を韓国にかけた結果、韓国はGSOMIAの破棄をあきらめたが、果たして韓国が同盟の相手としてふさわしい存在なのか深い疑念を日米両国に投げかける結果となった。

 ただ、こうした韓国の離反姿勢は現在の文在寅政権から始まったわけではない。朴槿恵前大統領は15年9月、西側の指導者としてただひとり中国の抗日戦争勝利記念行事に参加し、ロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席とともに軍事パレードを参観した。そのあとを引き継いだ文政権はその姿勢を一層強化し、日本と米国との連帯を軍事同盟化しないことなどを中国と約束したのである。これは明らかにNATOにおけるトルコのように、同盟に背を向け、敵対する側に寄り添おうとする行動である。

地政学的な地殻変動に
日本はどう対応すべきか

 このように現代の国際社会の構造を読むには中国とロシアを別々の国家として分けて考えるより、ひとかたまりのユーラシア権力として考えたほうがわかりやすい。そのユーラシア権力の台頭により世界の力のバランスが崩れ始め、共振するように大陸の東西で地政学的な地殻変動が起きているのである。トルコのNATOからの離反も、韓国の日米からの離反も、同じ歴史の回転軸で起きていることを見逃してはならない。

中露の合同軍事演習は世界各地で行われている (SHINKASHA/AFLO)

 それでは日本はこの地殻変動にどう対応すべきだろうか。それは、同盟を組む相手を増やし、安全保障の傘を幾重にも張りめぐらすことである。オーストラリア、インド、英国など、インド太平洋に権益を持つ国々を束ねて、同盟のネットワークを構築しなくてはならない。特に英国との同盟は重要である。日本と英国は民主的な海洋国家であり、長い友好の歴史があり、互いに米国の戦略的パートナーでもある。日英には米国を支え、米国の国際影響力の低下を防ぐために尽力する責任がある。

 19世紀の英国の政治家であり二度にわたって首相を務めたヘンリー・ジョン・テンプルは1848年、議会下院で次のように演説した。

 「英国には永遠の味方もいなければ永遠の敵もいない。あるのは永遠の利益だけだ」

 混沌とした不確実さが増す時代の中で国家が生き抜く術を彼は明快に教えてくれている。

戦略の地政学──ランドパワーVSシーパワー』
 

  秋元千明 著

世界では今、何が起こっているのか…。
地域紛争の多発、国際テロの激化、中国やロシアの拡張主義、ポピュリズムの昴揚による民主主義の危機……
世界が予測不能領域に入りつつある「今」を読み解くには、「地政学」が鍵になる。
なぜなら、各国の外交、安全保障戦略はすべて地政学的思考によってつくられているからだ。
地政学とは、いったい何か? 大国(米国、中国、ロシア)は、地政学をどのように利用しているのか?
日本の地政戦略とは何か?安全保障の専門家が多数の地図を元に、国際情勢を読み解く。

 

  
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◆Wedge2020年2月号より

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
 
 

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