確かに、米国を排除し欧州による欧州の防衛という考え方はフランスには古くからある伝統的な考え方だが、これまで成功した試しがない。第二次世界大戦以降、欧州の安全保障は常に米国の力に依存してきている。加盟国が合意したGDP比で2パーセント以上の国防費を支出するという最低限の約束さえ守れぬ国が多く、米国以外では英国、地理的にロシアに近いバルト諸国など8カ国が約束を果たしているにすぎない。
また、NATO加盟国では米国に次いで強力な軍事力を持つ英国の立場も微妙である。英国は20年1月、EUから離脱することが確定し、離脱後はグローバルブリテンという構想のもと、新たな外交戦略を始めることになる。
その骨格となるのはこれまでのような欧州偏重ではないアジアへの関与であり、そのパートナーは日本である。英国は建造した新型空母一隻を21年までに南シナ海や日本の周辺で活動させる計画だ。英国は今後もNATOのリーダーとして、欧州の安全保障に深く関わることを表明してはいるものの、これまでと変わらぬ貢献をヨーロッパに提供し続けることができるかどうかは不透明である。
英国は第二次世界大戦から今日に至るまで欧州の安全保障の中心的な役割を果たしてきたし、米国との特別な関係を利用して、米国を欧州に関与させてきた実績は大きい。NATOは米国の関与を得るためにもEU離脱後の英国とこれまで以上に連携を深める必要があろう。
離反するトルコに
接近するロシア
さらに、NATOが直面する最も深刻な問題はトルコに関するものだ。トルコはNATOとの事前協議なくシリアに軍事侵攻し、クルド人勢力を攻撃した。ところが、このクルド人勢力はNATO軍がシリア領内のテロ組織に対して軍事行動に出た際、これに協力した武装勢力であり、NATOとしてトルコの軍事行動は到底容認できるものではない。ところが、トルコはクルド人勢力をテロ組織として認定するようNATOに要求し、受け入れられない場合は、バルト諸国やポーランドのNATO防衛案に拒否権を行使することをほのめかし、同盟国のNATO諸国を揺さぶっている。
そして、そのトルコの反目に目を付けたのがロシアである。トルコはロシアから高性能の対空ミサイルS400を購入することを決めたのだ。加えて、米国が最新鋭の戦闘機F35をトルコに売却することをすでに決めていたことがこの問題を複雑にした。
もし、トルコがF35とS400を合わせて運用すれば、F35のステルス性能に関する情報がS400のレーダーによって記録されることになり、その情報はロシアに渡る可能性が高いからである。そのため、米国はF35の売却中止をちらつかせてミサイルの購入をやめるようトルコに求めているが、トルコはトルコ国内の米軍基地の閉鎖をほのめかして米国を牽制している。
トルコは黒海の入り口に位置し、対岸のロシアを真正面から牽制できる場所にあるうえ、地理的に中東に最も近い加盟国でもあり、NATOにとって最重要の戦略的要衝である。それだけに、トルコの離反はNATOにとって極めて深刻な問題である。
このようにNATO首脳会議の焦点は大きく分けて、中国への警戒とロシアの脅威、加盟国の単独行動の3点であったが、そのどれもが、最近の二つの国際政治の力学によって起きたものだ。すなわち、①米国が世界の警察官の役割を返上した結果、米国の国際的影響力が低下し始めていること、②それによってできた力の空白に中国とロシアが手を伸ばしていること、である。