世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年5月26日

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 国内外で、新型コロナウイルス危機終息後の世界がどう変わるべきかの議論が高まりつつある。世界のビジネス界は、この危機の経験を踏まえ、中国に過度に依存しない、より短くより安全なサプライチェーンの構築に向かうであろう。サプライチェーン移転の方向は自ずとアジア・太平洋、なかんずく東南アジア諸国となろう。 

RonFullHD/iStock / Getty Images Plus

 この件に関して、ポーラ・ドブリアンスキー(ハーバード大学ベルファーセンター上級研究員、元国務次官)が、新型コロナウィルス禍の経験として、中国に過度に依存しない安全保障と平仄のあったサプライチェーンを構築するため、米国、豪州、日本、インドの4ヶ国の戦略対話(Quad)の場を利用して調整を行うことを提唱する論説を、4月30日付のウォールストリート・ジャーナル紙に寄稿している。

 ドブリアンスキーは言う。米国とアジアのパートナーは新たなサプライチェーンを設け、貿易関係の構造を改め、中国への依存を縮小した国際経済秩序の創設を始めるべきである。 政治・安全保障関係に貿易関係を揃える上で、多国間の有志国によるアプローチが有効であろう。そのことは、インドや東南アジアの諸国が開発を促進し、米国のより強力なパートナーとなることを助けることにもなろう、と。これは有用な問題提起の論説である。

 確かに、新型コロナウィルスによる中国のロック・ダウン(都市封鎖)によってサプライ・チェーンが断絶し、世界経済は大きな損害を被った。そればかりでなく、新型コロナウィルス発生源の原因究明等を米国や豪州が唱えると、中国は、貿易制裁で脅しにかかる。発生源に関して隠蔽しておきたいことがあるのだろうが、貿易相手国としては信頼がおけない。

 米国と中国との技術を巡るつばぜり合いや中国マネーに対する警戒感から、世界経済には分断(ディカプリング)の方向に圧力がかかっている。新型コロナウイルス危機は、更に分断の方向へ作用するであろう。もとより、サプライチェーンの刷新は、個別企業の判断によるべきものであろう。報道によれば、アップルなど米国のIT大手は、既に、生産拠点の中国への一極集中を止め、ベトナムなどへの分散を加速しているようである。しかし、関係諸国の政府間で政治・安全保障環境との平仄を合わせ、知的財産や機微な技術を守り、公衆衛生に係わる物品への信頼出来るアクセスを確保し得るよう、サプライチェーンのあるべき姿を議論し、これを資金的に支援することは有用であり得よう。 

 このような政府間協議の場としては、米日豪印の4か国によるQuadも、韓国、台湾及びベトナムを加えたQuad Plusもあろう。

 しかし、ドブリアンスキーの上記論説は、台湾をこの政府間協議の枠組みの一員に想定しているが、これは現実的ではないだろう。台湾を念頭に置くならば、独立の関税地域の加入を規定するTPP(環太平洋パートナーシップ)がまだしも現実的な選択であろう。

 もし、11月の米国の大統領選挙で民主党のバイデン候補が勝ち、米国がTPPに戻って来ることを前提とすれば、TPPを、台湾を含む協議の場として利用する可能性が生まれるかも知れない。 

  
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