世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年5月14日

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 4月16日付のフォーリン・ポリシーで、ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が、ウイルス危機は世界秩序を変えない、米国は優位であり続ける、米国の新政権は医療版マーシャル・プランの設置を考えるべきだと述べている。

magical_light/iStock / Getty Images Plus

 ナイらしい論評である。恐らくハース(本連載2020年5月7日付「新型コロナは国際協調主義の退潮を加速させるのか?」参照)、キッシンジャーなど最近の議論を念頭に書いたのだろう。ナイは、ウイルス問題は世界秩序を変えることにはならない、米中関係を念頭に地政学上の転換点にはならないと述べる。米国のソフト、ハード両面にわたる力の優位は続くと主張し、米国の新たな政権は医療版マーシャル・プラン設置の努力を主導すべきだと言う。 

 米国の優越性を強調するあまり、やや楽観的にすぎるとも思われるが、⑴米国のパワーはいまだ圧倒的に強い、⑵問題は米国の政策の間違いにあり、今の多くの問題はトランプにあるとする見解に、違和感はない。 

 しかし、今、国際機構、国際協力、多国間主義や自由貿易体制が大きな試練に陥っていることは深刻に考える必要がある。ナイは、米国の力を基礎に戦後見られたような国際協力の枠組みをもう一度立て直すべきだと考えているのだろう。国際的な医療版マーシャル・プランのようなことは正に検討していく必要がある。G20の場でそれを動かすことについては、同フォーラムの能力等からみて、不安を覚える。しかし、中国の関与は不可欠であることや米中関係の現状からみて代替案はないかもしれない。しかし、G7等も関与していくことが必要だ。最終的にはWHO(世界保健機関)の今後の改革の一環として、国際連合を含めて、WHOを中心に動かすのが最も有利ではないだろうか。 

 新たなイニシアティブはトランプ政権の下では難しい。ナイも「新たな政権」と言っており、次の政権に期待しているようだ。ナイは従来からトランプ・ファクターを問題としてきた。今秋の大統領選挙待ちということになる。バイデンが今後具体的にどこまで踏み込めるのか、米国の政治的雰囲気と併せ注目したい。 

 プロパガンダについて、ナイは、「ソフトパワーの基本は魅力だ。最善の宣伝は宣伝しないことだ」と言う。ポイントを突いている。中国などのソフトパワー外交はそれを取り違えている。 

 4月13日付の英フィナンシャル・タイムズ紙では、ギデオン・ラックマンが、「新型コロナウイルスと米国優位への脅威」 と題し、次のような鋭い議論を展開し、過度の米国衰退論は当たらない旨述べている。良く分かる。 

⑴ 自分は広く言えば米国衰退論の側に立っているが、過度の衰退論については現実的チェックとして2つの質問(尺度)を忘れないようにしている。 

⑵ 2つの質問とは、最も信頼されている通貨は何処の国の通貨か、子供に最も行かせたい大学がありまた最も働きたい国は何処かである。

⑶ 米国の大学や企業の魅力は国の能力を図る尺度だ。習近平とオバマは共に子供をハーバード大学に送った。 

⑷ パンデミックの後、米国の魅力は落ちるかもしれない。しかしそれでも米ドルの力は残る。他の通貨や金、ビットコインはドルの足元にも及ばない。ドルの信認が今回パンデミックを乗り越えることができれば、米国の優位も然りだ。

 一方で、4月2日付のフィナンシャル・タイムズ紙では、ジャナン・ガネッシュが、新型コロナウィルスの世界的流行によって、地政学的に勝者になる国は存在せず、我々は、無極化した世界にいることになる、と述べた。米国は外交力を失い、中国は信頼を失い、恐るべきは、予測不能な無秩序世界である、と警告する。第二次世界大戦後より、第二次世界大戦前に似ていると見ている点では、ナイよりハースに近い。
  
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