世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年5月7日

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 米国シンクタンク、外交問題評議会(CFR)のリチャード・ハース会長が、今回のパンデミックは歴史の転換点というよりもこれまでの歴史を加速化することになると4月7日付のフォーリン・アフェアーズ誌で述べている。以下、簡単に紹介する。

metamorworks/iStock / Getty Images Plus

・パンデミック後の世界について、殆どの者が今までとは根本的に違う世界になると主張する。しかし、今回の危機は、世界史の方向を変えるというよりも、その方向を一層加速するだろう。米国の指導力の衰退、国際協力の衰退、大国間の摩擦は、パンデミック前の世界の特徴だった。これらの特徴はパンデミック後の世界で一層顕著になるだろう。 

・今回の危機の特徴の1つは米国の指導力の欠如だ。米国はウイルス防圧や経済対処につき世界の集団的努力を結集するようなことはしなかった。他国は個別に努力をするか、中国等感染のピークが過ぎた国が支援した。 

・トランプの「アメリカ第一」主義は、海外での活動を減らし国内に集中すれば米国はより強くなり、繁栄するというものだ。かかる見方は一層強くなるだろう。

・パンデミックは世界的な問題そのものだが、世界的な対応はない。WHOの機能不全に近い状況はグローバル・ガバナンスの欠如を物語る。

・悲観論の1つは米中関係の悪化にもある。米国は、ウイルス発生に係る中国の隠蔽や不作為の責任を問題視している。中国は今や中国のウイルス対処を成功モデルと主張すると共に、この機を捉えて世界での影響力拡大に乗り出している。

・パンデミックの結果として起きる変化は、混乱という事実ではなく混乱の拡大だ。第二次世界大戦の後に世界の平和、繁栄、 民主主義が促進されたように、今回の危機により感染症や気候変動、核不拡散などで国際協力をする国際秩序が構築されることが理想である。しかし今日の世界では、コンセンサスは殆どない。1945年の米国が持っていたような力を持つ国は存在しない。中国も含めて、米国が作り出した真空を埋める能力を併せ持つ国はない。 従って考慮すべき先例は、第二次世界大戦に続く時代ではなく、寧ろ第一次世界大戦後の米国の関与衰退と国際的激動の高まりの時代かもしれない。  

 知的楽観主義と自信に満ちていたハースが、今やかかる悲観主義に陥っていることは、今の世界と米国のリーダーシップの問題がそれ程深刻だということであろう。ハースは、今回のウイルス危機は、国際協力重視に回帰する「転換点」になるのではなく、むしろ米国のリーダーシップの欠如、国際主義や民主主義の後退といった既に進行中の趨勢の「加速化」になると言う。 

 しかし、今回の危機の主要な問題は、単純化して言えば、習近平とトランプ、それにWHOの失敗と見た方が良いのではないか。中国の情報隠ぺい、初動体制の遅れ、システミックな抗争への転化などは共産党政権から来る問題だが、トランプの問題については、仮にオバマ政権だったらもう少し米国の関与やリーダーシップは違うものになっていたのではないか。ギリギリ未だ国際協力の時代への復帰は可能ではないか。 

 ハースの次の言明が印象に残る。 

⑴ 今日の世界は、秩序の形成には適していない。パワーは国家や非国家組織等一層多くの者の手中にある。コンセンサスは殆どない。新しいテクノロジーや課題は集団的な対処能力を超えている。  

⑵ 今考えるべき先例は、第二次世界大戦後の時代ではなく、寧ろ第一次世界大戦後の米国の関与衰退と国際的激動の高まりの時代かもしれない。 

 次のようなことを考えれば、これからの世界につきもう少し楽観的になることができるかもしれない。 

⑴ 米国の衰退は相対的なものであり、未だ米国の力は圧倒的に世界最大だ。 

⑵ 中国との競争は自由世界対非自由世界で考える。そのために大きな連合を作る。 

⑶ 中国との競争は価値の競争でもある。リベラルな価値には国数でも人口数でも圧倒的な支持がある。 

⑷ 価値の競争と地球規模課題への対処は別物である。中国は既にグローバリゼーションに組み込まれており、地球規模問題については中国を巻き込んで対処すべき問題であり、中国を排除するものではない。冷戦時代のソ連とは全く違う。国際協力は諸刃の刃であり、それは強制力にもなる。 

⑸ 国際社会では協力しないことは損になる。それが国際協力のインセンティブになる。

  
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