
ジェイムズ・ランデイルBBC外交担当編集委員(キーウ)
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、即時停戦を確保するための外交努力をロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「妨害」しようとしていると非難した。
ゼレンスキー氏はソーシャルメディアへの投稿で、戦争を終わらせることができるのは「アメリカの力」だけだとして、ロシア大統領にいっそうの圧力をかけるようアメリカに求めた。
ウクライナの大統領は、プーチン氏が「今まだ停戦していないのにも関わらず、はじめから極めて難しく受け入れがたい条件を設定して、外交を妨害しようと、あらゆる手を尽くしている」と批判した。
プーチン大統領は13日の記者会見で、停戦の考えを受け入れると述べながらも、詳細については多くの疑問を口にした。
プーチン氏は、ウクライナが6カ月前に一部を占領したクルスク州に言及し、ロシア軍が領土を奪還していると述べた。さらに、ウクライナ軍が「民間人に対する凶悪犯罪」を犯していると非難した。ウクライナ政府はこれを否定している。
さらにプーチン氏は、クルスク州にいるウクライナ兵が自由でいるべきか、それとも降伏すべきかと問いかけた。
プーチン氏は、ウクライナが停戦を利用して軍を動員し、再訓練し、増強したりしないのかとも尋ねた。ロシア軍が同じことをする可能性については、言及しなかった。
またプーチン大統領は、東部の最前線で停戦がどのように監視・監督されるのか、複数の疑問を口にした。「2000キロの距離にわたり、停戦合意に誰が違反したのか、そして正確にどこで違反したのか、誰が特定できるのか?」、「停戦違反の責任は誰が負うのか?」。
ゼレンスキー大統領は14日に記者団を前に、プーチン氏が挙げた一連の疑問に答えた。特に検証について直接答え、ウクライナは空と海での停戦を検証する能力が十分にあると述べた。ただし、前線を監視するには、アメリカとヨーロッパの航空機や衛星による監視・情報収集能力が必要だと話した。
プーチン大統領が停戦の実施について示す細かい疑問点は、解決可能だとウクライナ政府は考えている。しかし、プーチン氏が原理原則の問題として反対する点は、対応がはるかに難しい。プーチン氏は、どのような合意も「この停戦が長期的な平和につながり、この危機の根本原因を取り除くという前提から、出発するべきだ」と述べた。これはつまり、北大西洋条約機構(NATO)の拡大と、ウクライナが独立主権国家として存在することそのものに、プーチン氏が反対し続けてきたことを踏まえての発言だ。
即時の暫定停戦が、プーチン氏が問題視するこの部分を取り上げる可能性は極めて低い。カナダで開かれた主要7カ国(G7)外相会議が、ウクライナの領土保全と「生存権、自由、主権、独立」を強調したのも当然のことだ。
ゼレンスキー大統領が「戦争の継続と外交の破綻を望んでいるのは、ロシアだけだ」と述べたのも、そのためだ。
では、これから何が起こるのか? ボールはアメリカ側にある。
ドナルド・トランプ米大統領は、ウクライナの要求に応じてロシアへの圧力を強めるという選択をするかもしれない。彼はロシアや、ロシアの安い石油やガスを購入している国々に、追加制裁を課すかもしれない。トランプ氏はまた、ウクライナへの軍事支援や情報支援を増やすかもしれない。
あるいは、合意成立のためにロシアにいっそうの譲歩を申し出るかもしれず、ウクライナ政府の間にはこの展開への懸念が一部にある。アメリカがウクライナにかけ続けた外交圧力は非常に公然としたものだったが、それに対してアメリカとロシアの接触のほとんどが、秘密裏に行われてきた。
だからこそゼレンスキー大統領は、ロシアの引き延ばし戦術を非難し、西側諸国にプーチン大統領への圧力を強めるよう促している。トランプ大統領とプーチン大統領が最初の電話会談を行ってから1カ月以上、アメリカ外交の厳しいやり玉にあげられてきたゼレンスキー氏は、もしかすると今はロシアが脚光を浴びる様子を喜んでいるのかもしれない。
結局のところ、トランプ大統領は就任以来、ウクライナ戦争を含む多くの国際問題に外交ブルドーザーで突っ込んだ。
しかし今、そのブルドーザーの前にはクレムリン(ロシア大統領)という壁が立ちはだかっている。クレムリンの壁を突破するのは、他よりも手ごわいかもしれない。
トランプ大統領は戦闘の早期終結を望んでいる。プーチン大統領は詳細と原則に関する「綿密な」協議を望んでいる。自分の思い通りにすることに慣れた頑固な2人のリーダーは、それぞれ相容れない2つの要求を掲げている。
どちらが先にひるむのか? アメリカが「慎重な楽観主義」を表明しているにもかかわらず、停戦の見通しは決して確実ではない。
(英語記事 Prospect of Ukraine ceasefire still uncertain despite Trump's optimism)