2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年4月14日

 米バード大学教授でハドソン研究所特別研究員のWalter Russell Meadが、3月23日付けウォールストリート・ジャーナル紙に‘Will Coronavirus Kill Populism?’と題する論説を寄稿し、新型コロナウイルスはポピュリズムを終わらせるかと問い、ポピュリズムが攻撃する従来勢力の政治や政策に戻るべきだとの主張には理屈がある、トランプの再選はトランプ登場以上に大きな衝撃になるだろうと述べている。

olya_steckel/iStock Editorial / Getty Images Plus

 ミードの論説の主要点は、⑴トランプに代表されるポピュリスト政治のために世界のウイルス対応の中心にそれぞれの独立国家がおり、国際協力や国際機関の存在感はない、⑵今回問題を通じて世界は再び多国間主義、国際協力の秩序に回帰するかもしれない、⑶その意味で秋の大統領選挙でトランプが勝つか負けるかは重要な意味を持つ、ということである。

 今回のパンデミックを通じて、世界が必要な修正をした上で基本的には多国間主義、国際協力に回帰することが強く望まれる。バラバラな国際社会で国の利益を最大にするために国際協力が不可欠なことは明白であり、それ以外に方法はない。世界の有権者も今回事態を見て少し教訓を得ているのではないだろうか。そう期待したい。

 今回のパンデミックは史上最大のグローバルの問題となった。中国武漢から始まった感染は、一帯一路などグローバリゼーションの波に乗る中国の活動や影響力の拡大を通じて、瞬く間に世界に拡大している。

 すべての国に責任があるが、中国が初期に全ての情報を開示し、警鐘を鳴らし、国際協力を求め、WHOがもっと早期に行動していたならば、こんなことにはならなかったのではないか。25日、ポンペオは記者会見で、(1)専門家派遣など米の協力の申し出を拒否、(2)情報共有の遅れ、(3)発生源に関する偽情報等につき中国を強く批判した。

 他方、米国にも責任がある。世界最大のリーダーにも拘わらずリーダーシップを侮蔑した。トランプは、時代錯誤のゼロサム世界観、国際協力や国際機構の軽視、さらに専門家や専門的技能を軽視した政治手法を取り続け、有効な国際協力を築こうとはしなかった。米国が議長であるG7の電話会議は良かったが、実はイニシャティブを取ったのはフランスのマクロン大統領であり、お膳立てもフランスがやったという。米政府内で「大人達」の力が回復してきたというわけではなさそうである。米国の歴代政権は、種々の問題を起しながらも、同盟国と連携し強力な指導力を発揮、コアリッションを造り、世界をまとめ、危機を克服してきた。70年代のエネルギー危機、経済危機、ソ連のアフガニスタン侵攻、フセインのクウェイト侵攻、テロ対策等である。現状が更に4年続けば国際秩序の回復は一層困難になる。3月24日付けのワシントン・ポスト社説‘The coronavirus pandemic may mark a decline in U.S. leadership’は、スエズ動乱が英国衰退の標識になったように今回のウイルス問題が米の「スエズ」になることになればトランプに責任がある、米国の指導力欠如の最大の受益者は中国である旨述べている。

  
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