世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年4月6日

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 3月16日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙コメンテーターのラックマンは、中国が、新型コロナウィルス問題を説明する際に、それを中国共産党の成功物語、権威主義の擁護及び反民主主義に切り替えていて、そのような言い方は今後一層大胆になる可能性があり、新型コロナウイルスの地政学的影響は、2008年のリーマンショック金融危機を上回るかもしれないと指摘する。これは、最近増えているコロナウイルス地政学論の走りである。

Іван Жук/iStock / Getty Images Plus

 保健問題に集中し、新型コロナウィルスの感染拡大を防止すべき時に、当問題を政治化、体制競争化させる最近の中国の傾向は、懸念されるものである。中国共産党の成功と言った言辞の増大や欧州諸国等への支援の増大、趙立堅報道官の「米軍がウイルスを武漢に持ち込んだのかもしれない」との主張に見られるような挑戦的言辞、習近平主席のウイルス起源の研究指示等の動きをみると、民主主義と対決していくとの中国の体制攻勢の意図は明らかである。勿論、権力基盤を強化するという国内的目的もあるのかもしれない。改めて、中国とのイデオロギーの違いや価値の違いを想起させられる。中国がシステミックな競争で攻勢に出るのであれば、米中冷戦論といった論調も無理からぬことになる。なお、ウイルスの発生源については、既に中国政府機関が野生動物からヒトに入った可能性を認め、中国共産党指導部は、野生動物市場や取引を取り締まるように法改正を指示している。

 3月16日、G7首脳がテレビ会議を開催し、新型コロナウイルス対策や経済対応につき協議したことは良かった。G7共同声明は、ウイルス対処に当たっては「科学と根拠に基づき、かつ、我々の民主的な価値観及び民間企業と整合的な、国際的に連携されたアプローチを取ることが必要である」と述べているが、中国の物言いの変化も念頭に入れたのだろう。西側諸国が早期に抑圧に成功することが強く期待される。更に安易なポピュリズムに流されないように、国内を団結させ、民主主義を強化しておくことも重要であろう。

 中国の新型コロナウィルスに関する言質が変わったのみならず、もう一つ気になる点は、中国の対欧州医療支援が加速している点である。中国と、G7諸国で初めて「一帯一路」協力覚書を署名したイタリアには、3月19日、第2陣の医療支援隊が到着した。同国での爆発的感染拡大の背景には、中国との往来の増加があるようだ。セルビアには、3月21日、中国医療専門家が人工呼吸器や 20万枚のマスクと共に到着した。それに先立つ3月15日、セルビアの大統領は、「ヨーロッパの連帯は存在しない。紙に書かれたおとぎ話にすぎない。われわれは中国抜きでは自らを守ることもできない」と述べたという。ギリシャには、3月21日、中国から50万枚のマスクが提供された。既に分断されているとしても、欧州には団結して今の難局を乗り切って貰いたいものだ。

 3月20日付のフィナンシャル・タイムズ紙では、同紙のステファンズが、国家の対応では世界的な感染病の解決はできないと述べている。その通りであろう。新型コロナウイルスのアフリカ拡大にでもなれば尚更である。ステファンズは G20が役割を果たすべきだと述べ、そのためにまずトランプ大統領、習近平主席、メルケル首相、マクロン大統領を含むG20幹事会を設けるべきだと提案する。この4首脳は、米中に相互非難の言葉の戦争を中止させ、その次の措置として貿易制裁措置を止めさせるべきだと、ステファンズは述べている。しかし、当事者の米中が、それに納得するのか、独仏の首脳に米中両国を説得させることができるのか、はなはだ疑問である。また、中国の「寛大な」対欧州支援のお返しとして説明できる、と述べている点も、あまりに中国寄りの言い回しに注意が必要である。幹事会のメンバーとして日本への言及がないことも気になるが、一応「含む」となっており、日本排除はあり得ないと思われるも、要警戒である。ステファンズの中国観はやや気になるが、欧州が適正な中国観を持つように日本が意思疎通を密にしておくことの必要性は言うまでもない。

  
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