パンデミックのまさに真っ只中の4月14日に発表されたIMFの「世界経済見通し」は、現在起こっていることを「グレート・ロックダウン」と呼んでいる。前回は1月に発表されたが、その段階ではIMFは世界で何が起ころうとしているのか分かっていなかった。
今回の「世界経済見通し」は、1つの基準シナリオと3つの代替シナリオを提示している。基準シナリオは、世界の一人当たりGDP成長率をマイナス4.2%と予測する。ただし、今年の第2四半期には景気は底入れするとしている。その後、先進国のGDPは22年まで19年第4四半期の水準を下回るものの、回復を見込んでいる。世界経済は20年に3%低下するが、21年には5.8%成長すると予測する。なお、この基準シナリオでは、20年後半に経済活動が再開されることを想定している。
代替シナリオ1は、ロックダウンの期間が基準シナリオより50%長びくことを想定している。代替シナリオ2は、21年にウイルスの第二波を想定している。代替シナリオ3は、その両者が組み合わさったケースである。代替シナリオ1においては20年の世界のGDP成長率は基準シナリオ(マイナス3%)よりさらに3ポイント低くなっている。そして代替シナリオ2では、21年の成長率は基準シナリオ(5.8%)を5ポイント下回っている。そして、代替シナリオ3における21年の成長率は、基準シナリオを約8ポイント下回っている。
実際のところ、上記の4パターンのいずれが当てはまるのか、さらに悪い状況になるのか(「世界経済展望」もその可能性に言及)、予測することは不可能に近いが、敢えて今後の世界経済の回復パターンを思い描いてみると、次の4通りが考えられよう。
先ず第1 は V 字型回復を想定する「基準シナリオ」、あるいは IMF の予測より現実が上振れするケースである。こうした楽観シナリオは政策当局だけでなく、多くの投資家が現実に抱いているシナリオである。事実、最近の株価は足元の経済データが最悪であるにもかかわらず、大きく上昇している 。それはなぜか。石油価格の低迷もあるが、もう1つの要因は、株価は足元の景気ではなく先行きの景気予想によって決まるということであろう。「不況下の株高」である。要するに、米国では民間企業への直接貸出を含むFedの超金融緩和政策が発動され、かつ2.2兆ドルの財政政策が発動されている。そうすると、ウイルスが過ぎ去り、経済活動が再開すれば、V字型回復はあり得るということである。
第2のシナリオはU字型である。すなわち、景気の底がIMFの想定より長くなるというシナリオである。「なべ底景気」と言ってもよい。このシナリオを描く人たちは次の3点を重視している。その1は、リーマンショックの2009年当時の中国経済には底力があったが、今回はそうではない点である。その2は、石油価格の低迷である。その3は、米国経済の足元の失業と小売り売上高の動向からの類推であり、今後は失業率の高まり→消費の不振→失業の高まりという失業と消費の間にマイナスの循環の力が働くと見る。
第3のシナリオは、二番底を伴うW字型である。その要因の1つは経済活動の再開時期の誤判断である。現在はウイルス退治の優先によって実体経済は最悪である。そうした中、自粛疲れもあり3密回避の一刻も早い解除を求める声は大きくなっているようだ。欧米では感染拡大がピークを越えたとしてロックダウンを緩和する動きも見られる。ただ、目先の株価上昇を狙ったり、政治的思惑によるフライング気味の経済活動の再開は、感染者の第二波の増加を許し、実体経済を再度後退させるリスクをもたらすという指摘も多い。
第4のシナリオはL字型である 。ここで考えられることは2点である。1つは需要の長期的な低迷と人的資本の摩耗によって需給両面から低迷が長期化することであり、2つ目は途上国特に重債務国や一次産品国が世界経済から落ちこぼれ、世界経済の足を資源や一次産品の供給面から引っ張るというシナリオである。
いずれにしても、上記の4つのシナリオのどれが最も高い確率かは不明である。対応を間違えば世界経済はL字型に向かうリスクも否定できない。フィナンシャル・タイムズ紙チーフ・コメンテーターのMartin Wolfは、4月15日付けの論説‘The world economy is now collapsing’において、この危機を回避しV字型を手に入れる方法は、経済活動の再開を急がないこと、及び、貧困国への医療面と経済面での援助であると強調している。Wolfは「国際的な協力の欠如は、より多くの人々が死ぬことを意味する」と言っている。
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