世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年4月16日

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 4月2日、米国労働省は、前の週(3月22日~3月28日)の失業保険の申請件数が660万件以上に上ったと発表した。この数は、既に1967年に統計を取り始めて以来、過去最多となった3月26日の労働省の発表による新規失業保険申請者数、328万件の約2倍となった。米国における、この失業者数の爆発的増大は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響である。

spyarm/Denis_prof/iStock / Getty Images Plus

 ただ、3月26日付のニューヨーク・タイムズ紙の社説は、欧州の例を引いて、米国の失業者数の爆発的増加は不可避ではなかったと言っている。欧州では、企業が、新型コロナウイルスの影響で売り上げや利益が減った場合でも、雇用を維持すれば、政府からの支援が得られる。デンマークとオランダでは政府が従業員の給与の90%を、イギリスでは 80%が、政府によって補填されると言う。

 ところが、米国では関連企業は従業員を解雇する。これは企業が景気後退期にはまず従業員を解雇するという、いわば米国企業の慣行に基づくもので、米国企業の経営の体質といってもいいものである。上記社説は、これは株主を優遇するものであると言っている。

 もし、このような慣行が、米国企業の体質とも言えるものであるとすれば、今回の危機に際して、まず従業員を解雇するというのはいわば当然の行動であったと言える。そうとすれば、新型コロナウイルス危機で、米国の失業率が爆発的に増加したのは不可避とまでは言えないまでも当然であったと言えるのではないか。

 いずれにせよ、今回の米国の失業は深刻な問題である。米セントルイス連銀のブラード総裁は、3月22日、新型コロナウイルス感染拡大による休業などの影響で、米国の失業率が 4-6月期に30%に急激に悪化する恐れがあるとの見通しを述べ、強力な財政政策を呼び掛けた。30%というのは、大恐慌期の1933年の25%強を上回る危機的な数字である。トランプ大統領は、総額2兆ドル(約220兆円)の経済政策法案に署名をして、失業を含む経済対策を打ち出した。これにより、ある程度の経済支援によって何とか経済は支えられるかもしれないが、ブラード総裁発言は失業問題の深刻さに警告を発したものである。

 新型コロナウイルスの感染拡大で、米国経済がどのくらい打撃を受けるか、経済政策がどの程度有効かにもよるが、仮に新型コロナウイルス終息後、経済政策が目標としている米国経済のV字型回復が実現されたとしても、直近の3.5%という歴史的に低い失業率の回復を短期間で達成することは困難なのではないかと思われる。

 この米国の失業率の高さが、米国政治に与える影響もあるだろう。今年11月には、米国大統領選挙が予定されているが、それが通常通り行えるかさえ定かではない。また、再選を狙うトランプ大統領は、今まで、失業率の低さと米国の景気を標榜して、自分の政権の手柄を宣伝してきたが、もはや、そのやり方は通用しない。今は、とにかく、超党派の議会とも連携して、新型コロナウィルスの感染拡大を防止しなければならない。下手すれば、トランプ大統領の再選もなくなるだろう。

 世界第1の経済大国である米国の急激な景気悪化が、世界経済に及ぼす影響も無視できないであろう。かつて「米国がくしゃみをすると日本が風邪をひく」と言われたように、米国経済の先行きは、日本にも直接、間接に響いてくる。最近の株価一つとってもそうだが、米国の指標は、ほぼそのまま日本にも反映される。新型コロナウィルスの感染拡大は、今のところ収束の目途がたっていない。世界中にこれだけ蔓延した感染症は、人類の歴史でも稀なことではないだろうか。既に、「コロナ恐慌」とか「第二次世界恐慌」とか呼ばれているように、我々は、暫く厳しい生活を強いられるかもしれない。

 

  
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