サプライチェーンはグローバル化の象徴ともいえるものである。それがコロナウィルスで国境が封鎖され、人の流れのみならず物流に大きな障害となり、サプライチェーンが危機にさらされることになった。サプライチェーンのリスクが浮き彫りにされたと言ってもいい。
外国での生産は部品など製造過程の一部を行うサプライチェーンのほかに、生産全体を行うケースもある。米国の場合、医薬器具や薬品の多くを中国で生産していたらしい。今回のコロナウィルスでその入手が困難になり、国内生産をすべきであるとの議論が出て来るのは不思議ではない。米外交問題評議会のオニール副会長は、Foreign Affairsのウェブサイトに4月1日で‘How to Pandemic-Proof Globalization’と題する論説を寄せ、コロナウィルスは世界的サプライチェーンが人々、経済、そして国の安全保障に与えるリスクを明らかにしたと述べ、それへの対応としてサプライチェーンの重複(redundancy)を提唱している。
サプライチェーンの場合、外国で行ってきた部品などの製造過程を米国に戻すとなれば、新しいサプライチェーンを作る必要があり、簡単ではない。何よりも生産のコストが上昇する。米国の生産コスト、特に労賃は割高であり、それがそもそもサプライチェーンを外国に移す理由であった。国内に移し替えると米国の産品が割高になり、国際競争力を失う。輸出は減り、貿易赤字が増える。国内でも外国製品との競争にさらされる。
そこで、オニールは、外国でのサプライチェーンを廃止するのではなく重複(redundancy)を推奨する。複数のサプライチェーンをつくり、一つが途絶えても供給が滞らないようにするというわけである。これはそれだけコストがかかる。しかし、いざという場合に備えての保険となる。コストをぎりぎりまで下げ競争するというのが市場経済(資本主義といってもよい)の原理であった。在庫、労働者、時間を減らす「無駄のない製造」(lean manufacturing)もその例である。しかしそれはリスクを伴う。何か一つ障害が起きれば歯車が狂ってしまう。ある程度の余裕を持つことが市場経済の持続性を保証することになる。サプライチェーンを複数にするというのはまさにそれであり、真剣に検討されてしかるべきと考える。
米国にとってサプライチェーンの再検討は喫緊の問題であるが、中国でのサプライチェーンは別の話だろう。米中はハイテクをめぐって覇権争いをしており、米中の対立は今後も続くだろう。そうとすれば米国企業は中国におけるサプライチェーンの重複を考えるのではなく、東南アジアなどに移すことを考えるのがより賢明と考えられる。日本の企業も、この際、サプライチェーンのリスクについて検討し、いかに対処すべきかを考えるべきであろう。
コロナウィルスは何十年に一度の現象である。危機が過ぎ去った後は以前の状態を復旧すればいいとの考えもありうる。しかし、コロナウィルスはいつ何が起こるかもしれないという教訓を与えた。この際リスクの回避は真剣に検討すべきなのであろう。
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