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2019年6月20日

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李 智雄 (り・ちうん)

三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミスト

1976 年韓国生まれ。東京大学経済学部卒業、ボストン大学大学院修士課程修了。経済学博士。韓国陸軍士官学校陸軍中尉・専任講師、東京大学客員准教授、国際大学講師、ゴールドマンサックス東京・ソウルを経て、2014年から現職。著書に『故事成語で読み解く中国経済』(日経BP 社)。

 5月15日、米国商務省産業安全保障局(BIS)は、華為技術(ファーウェイ)およびその米国外の関連会社68社を、米国の安全保障上の利益に反する企業リストである「エンティティリスト」に追加すると発表した。同企業への製品の販売には事前に米政府の許可が必要となるが、基本的に不許可となるため、事実上ファーウェイは米国製品の調達ができなくなる。5月13日にも中国、パキスタン、アラブ首長国連邦の12の事業体を加えると発表しているが、そのリストにさらに追加された格好だ。

米国政府がファーウェイに対し事実上の輸出禁止措置を取り、その余波が世界中に押し寄せる(AP/AFLO)

 中国側も反応した。5月末、中国商務省は米国側のファーウェイへの措置に対抗すべく、中国版エンティティリストともいうべき、「信頼できない外国企業リスト」を作成すると発表した。これは、市場原則に従わずに中国企業への供給を停止するなど、中国企業の正当な権利や利益を損なう外国企業や個人を一覧にしたもの。記載された企業には必要な措置をとるとして警鐘を鳴らしている。米中対立の影響が世界中の企業に広がることになる。

油断できぬ米国規制
日本企業も慎重な対応を

 米国の措置により、日本の株式市場も反応し、ファーウェイ向けに製品を輸出する村田製作所やTDKといった日本の輸出関連企業株は軒並み値を下げた。考えられる理由の一つは、輸出数量が今後米国側の規制によって低下する数量効果に対する不確実性である。もう一つは、為替面にあると推測される。特に中国企業が最大顧客となっている部品会社など、取引通貨がこれまでのドルから人民元に切り替えられ、為替リスクを日本企業が負担するという形になっている企業が少なくない。

 そこで為替に目を向けてみると、5月に入り、人民元は対米国ドルでも、対日本円でも切り下がっており、それが業績に対するマイナスになりうるとされ、株価を押し下げたという要因もあるようだ。米ドルのみならず、人民元の行方という為替リスクも、日本企業は想定しておく必要がある。

 今回の決定は米国によるファーウェイに対する禁輸措置だが、日本企業はファーウェイ向けの製品で、規制対象になるような米国製の部品が含まれているか確認する必要がある。米国製の規制対象品が25%超含まれていれば、日本企業が日本あるいは外国で生産した製品でも輸出が規制対象になる可能性があるからだ。

 ある日本のメーカーの担当者から、「自分たちの製品が規制に抵触するか国の担当者に確認したところ、問題ないだろうとの見解をもらい安堵(あんど)している」という声を聞いたが、楽観的な判断に基づくのは危険である。あくまでも規制に抵触するか否かの判断は米国が行うものであり、もし抵触した場合は米国市場を失いかねないことを忘れてはならない。

 難しいのは、米国が技術やソフトウェアの分類をどのように行うかという点だ。仮に、客観的な基準があっても、その基準を作るのは誰なのか、それを考える必要がある。米国に製造拠点を持ち、雇用を生み出していることだけでは、規制に抵触するかを判断する際に必要十分ということにはならない。米国企業と競合しているか否か、防衛関連産業にどのくらい関わっているのか、中国にも雇用を生み出してはいないか、米国政府の考える新規産業にどれくらい寄与できるのか、など多方面が判断材料になりうると推測されるため、日本企業は慎重な対応が求められる。

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