2024年12月7日(土)

山師の手帳~“いちびり”が日本を救う~

2019年5月31日

( REUTERS/AFLO)

 中国の習近平国家主席が最近になってレアアース(希土類)関連の国内工場を視察したというニュースが中国国営新華社通信から報道されるやレアアース関連企業の株価がストップ高で推移している。

 その訪問工場とは江西省にある「江西金力永磁科技」である。

 該社はネオジム磁石の研究開発から生産、販売までを一貫して行う企業であり、磁性材料、国内新エネルギー、省エネ分野の核心的応用材料のサプライヤーである。

 磁性材料の用途は広く、風力発電、EV、省エネ自動車、インバーターエアコン、省エネエレベーター、ロボット及びインテリジェント化製造及びサーボモーターなどの業界に応用され、先端技術分野とも関係の深いリーダー企業と戦略的パートナーシップを結んでいる。

 江西省はレアアースの資源面では世界最大の鉱山を有するが、最近では枯渇傾向にありミャンマーやベトナム、遠くはアフリカにもレアアース資源を求めて探査している。

 習近平主席の工場視察のニュースが5月中旬に流れるや、海外メディアも中国がレアアース資源輸出を禁止するのではないか? との危機感から多少バイアスのかかった大袈裟な報道を始めた。

 各種報道によると、「貿易戦争」が激化する中で中国はレアアースを報復手段に利用する可能性を示唆している。米国はレアアース需要の80%を中国からの輸入に依存している。今回の習主席の視察には米国との貿易交渉を率いてきた劉鶴副首相が同行したことも憶測を生んだのかもしれない。

 しかし、米中貿易戦争において、レアアース禁輸は、本当に中国の切り札になるのだろうか?

日本勢のしたたかな動き

 「レアアース問題」といえば、2010年に尖閣列島を巡って中国側がレアアースの対日輸出を禁止した事件を誰もが思い出すだろう。その結果、世界のレアアースの価格は100倍以上に値上がりした。しかし、日欧米が世界貿易機構(WTO)に提訴して中国は敗訴したため、2012年以降になるとマニュピレーション(価格操作)が崩れて、輸出を再開したためにレアアースの国際価格は一気に暴落してしまった。

 レアアース市場の需要比率は、「レアアース磁石」分野が最大である。

 実は、このレアアースパニック以降、日本の磁性材料のメーカーはレアアース資源の入手しやすい中国大陸に移転したのだ。

 具体的には世界最大のネオジム(NdFeB)磁石メーカーの日立金属は、日立金属三環磁材(南通)有限公司を中国南通に設立し、2017年4月から稼働を開始した。TDKは広東東電化広晟稀土高新材料有限公司を広東省に設立し、信越化学も「信越(長汀)科技有限公司」を中国南東部の福建省に設立した。

 レアアースのサプライチェーンはレアアースを分離した中間物から磁石合金を生産して、ネオジム磁石を経由してモーターを製造する。そのモーターがHDDや自動車や家電に供給される。このサプライチェーンの上流(磁石合金)の多くが中国で生産されるが、高性能ネオジム磁石以降は日本市場で生産されている。また、供給安定性を維持するために米国市場において磁石工場も設立している。

中国がレアアースを禁輸するとどうなるのか?

 確かに、レアアース産業の資源は中国が採掘量の71%を占めている。ただし、仮に中国がレアアース中間物と磁石合金の禁輸を決定したとしても、短期的にはネオジム磁石やモバイル・デバイスなどの在庫を積み上げすることで対応することができる。

 また、レアアースから作られる磁石で、前述のネオジム磁石であれば、中国だけではなく、インド、ベトナム、豪州などでも原料を調達することができる。

 ディスプロシウムに関しては、確かに中国に資源が集中している。だからこそ、磁石メーカーは、使用料の省力化、リサイクルを徹底して進めている。このため、こちらも短期的には心配することはない。

 さらに、日本メーカーは2025年までにレアアース磁石の現状生産規模の2.5倍までの増産を計画しているが、何れも中国における生産拠点を増強する計画である。このような状況を勘案すると、短期的には日本のレアアース産業の強みが発揮されるともいえる。また、世界市場への影響も大きくはないだろう。

 一方で、中期的に見た場合、資源を持っている中国の優位性が高まることは間違いない。しかも、足元の中国国内において、EV向けをはじめとして旺盛な需要を抱えている。しかし、長期的に見た場合、米中両国にとってマイナスだろう。米国にとっては、EVだけではなく、ハイテク産業、軍需産業への影響は避けられない。中国にとっても、レアアース禁輸となれば、少々のコストがかかっても先進各国は、代替材料の開発に乗り出すはずで、結局は、レアアースが必要のない資源になってしまうということになりかねない。


新着記事

»もっと見る