2024年4月19日(金)

山師の手帳~“いちびり”が日本を救う~

2019年5月31日

ファーウェイ事件は米中貿易戦争のアキレス健

江西金力永磁科技( Xinhua/AFLO)

 2018年12月1日、カナダのバンクーバー空港で、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長(46歳)が逮捕された。トランジットで立ち寄った空港で、アメリカの要請を受けたカナダの警察当局に身柄を拘束されたのである。

 華為(ファーウェイ)は、1989年の設立だが2017年の売上高6036億元(約10兆円)企業であり、従業員は世界約170ヵ国・地域で18万人を超える。その世界最大の通信器機メーカーを、創業者で父親の任正非(74歳)から近々引き継ぎ、会長に就任すると目されていたのが、カナダで逮捕された長女の孟副会長だったのだ。

 アメリカが第2次世界大戦以降、保持してきた世界の覇権は、中国に取って代わられることが囁かれている。なぜなら現在の中国は、前世紀のソ連に匹敵する軍事力に加えて日本とドイツの経済力を兼ね備えているように見えるからだ。

 おまけに人口も14億と世界一なので、有為な人材が溢れている。経済的、技術的、そして軍事的にアメリカが中国に追い越されるのは、時間の問題だという意見がアメリカ国内にも出てきている。トランプ大統領は本気で「America First」でなければならないし、そうでなければ選挙に負けると信じている。

 経済的には、現段階で中国のGDPは、アメリカの3分の2程度まで来ていて、このペースで進むなら、10年以内に逆転するという評論家が多い。軍事的には、中国の軍事費はアメリカの3分の1程度まで来ていて、東アジア地域に限定すれば、やはり10年以内に逆転する可能性は高い。

 さらに、経済分野と軍事分野よりも先に逆転しそうなのが、技術分野だという危機感がある。その転機になりそうなのが、今年である。なぜなら、今年には「5G元年」を迎えるからだ。

 いま中国を叩いておかないと大変なことになる。何もトランプ大統領だけではなくてアメリカ人なら同じことを感じているはずだ。しかもイラン向けのルール破りの取引や、軍事機密をスパイする噂やファーウェイの社員の中には共産党社員が何千人もいて社会主義自由経済という名のもとに中国政府と特別な関係があるため、ファーウェイはあらゆる意味で何でもありの国営企業になっていることは周知の事実だからだ。

 ファーウェイに限らず、中国企業はアメリカの技術企業の買収を狙っており、アメリカの技術流出には危機感を募らせているのである。今や中国の技術開発力はIT分野においては無視できなくなっているのである。

 ファーウェイは技術情報を入手するためには手段を択ばない。優秀な技術者をヘッドハンティングして最先端技術を入手するので、アメリカや日本の技術開発企業のように多大なる開発費用をかける必要もない。従ってファーウェイのスマホは開発経費が不要だからコストを安く設定することができる。何をしても国家権力に守られているとのイメージを持っているようだ。

 昔の日米自動車交渉もそうであったがアメリカ政府としては一方的に「アンフェア」だと決めつけている一面もみられる。

 基礎技術や基本特許はシリコンバレーの米国籍の企業が長年かけて開発してきたが中国系の金融企業が開発企業自体を安値で買収するケースも問題視され始めているのだ。

 ファーウェイの事件は中国共産党がアメリカに対して通信の世界で優位に立とうとしていることに対してシンボリックに報復手段に出たということが本質である。

 つまり今の時期を逃すとスパイ活動、情報漏えい、ハイテク技術戦争に負けてしまい、軍事的な覇権がアメリカから中国に移ってしまうという危機感から出たものである。

 その中でも5G時代が到来して今後はIot 人工知能(AI)の時代に不可欠な先端技術のサプライチェーンを中国が支配しつつあることが米中貿易戦争の争点である。

 トランプ大統領はオバマ大統領の様な「綺麗ごと」は一切言わずに関税問題で責め立てている。交渉の落とし所が「相殺関税」なら中国は必ずアメリカに負ける事が判っているから25%の税金を課すことにこだわっているのである。習近平国家主席は対抗策としてハイテク資源の禁輸を匂わせている。

 この戦いは当然大統領選挙を先取りしているので直ぐには解決するものではない。習近平国家主席にとっても現在の中国の政治的、経済的な不安定はこれまでになかった状況にまで追い込まれている。暫くはチキンレースが続かざるを得ない状況だが、歴史的な視点で分析すると100年間は解決しない問題かもしれない。

  
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