2025年2月18日(火)

BBC News

2025年1月29日

トム・ガーケン、テクノロジー記者

中国企業「ディープシーク(DeepSeek)」が開発した人工知能(AI)を使ったチャットボットについて、オーストラリアのエド・ヒュージック科学相が28日、西側政府の閣僚として初めて、プライバシーに関して懸念を表明した。このチャットボットは、株式市場やハイテク業界に激震をもたらしている。

「華為技術(ファーウェイ)」や「TikTok」など中国のハイテク企業をめぐっては、中国国家機関とつながりがあるとの疑惑がたびたび持ち上がっている。それを受け、人々のデータが情報活動の目的で収集されているとの不安も生まれている。

アメリカのドナルド・トランプ大統領は、ディープシークをアメリカにとっての「警鐘」だとしている。ただ、国家安全保障を脅かす存在とは考えていないとみられ、開発コストの低下につながるならよいことだとも言っている。

一方、オーストラリアのヒュージック科学相は、「データとプライバシーの管理」など、多くの未解決の問題が残っているとABCニュースで発言。

「細心の注意を払いたい。この種の問題は慎重に検討する必要がある」と付け加えた。

ディープシークは、BBCのコメント取材に応じていない。イギリスとアメリカのユーザーらには、今のところ、ヒュージック氏が示したような警戒心は見られない。

英米両国では、ディープシークがアプリストアで人気トップに急上昇している。市場分析会社「センサー・タワー」によると、リリース以来、300万ダウンロードを記録しているという。

その8割はここ1週間内のもので、「パープレキシティ(Perplexity)」などのライバルの3倍、ダウンロードされていることになる。

どんなデータを集めているのか

ディープシークのプライバシーポリシーによると、同社はユーザーから大量の個人情報を収集し、中国の「安全なサーバーに」保存している。

対象の個人情報には以下が含まれる。

・アカウント作成時に入力されたメールアドレス、電話番号、生年月日

・ユーザーが入力したテキストや音声、並びにチャット履歴

・いわゆる「技術情報」(携帯電話の機種やOS、IPアドレス、「キー入力パターン」など)

同社はこれらの情報を、「安全性、セキュリティー、安定性」の向上によるディープシークの改善に使うとしている。

さらに、サービス・プロバイダー、広告パートナー、グループ企業など外部と共有し、「必要な限り」保存するという。

オンライン空間のプライバシー対策を提供する「エクスプレスVPN」のローレン・ヘンドリー・パーソンズ氏は、「ディープシークの技術的な可能性、特にそのプライバシーポリシーの条項には、純粋に懸念がある」と話す。

同氏は、「サービスとは別に、あなたとあなたの行動を一致させるのを支援するために」データを使うことができると、プライバシーポリシーに書かれている点を強調。「プライバシーが心配な人は直ちに注意すべきだ」と述べた。

一方、専門家らからは、「チャットGPT」や「ジェミニ(Gemini)」などディープシークのライバル企業のサービスや、ソーシャルメディアを利用するに当たって、人々はすでに同じようなプライバシーポリシーに同意している可能性があるとの指摘も出ている。

安全なのか

サイバーセキュリティー関連のサービスなどを提供している「オックスフォード・インフォメーション・ラブス」のエミリー・テイラー最高経営責任者は、「ウェブやアプリのインターフェースをもつ、誰でも利用できるAIモデルでは、ディープシークに限らず、AIに向けて発せられた指示や質問は、答えも含め、メーカー側が利用できるようになっている」と説明。

「そのため、機密や国家安全保障の分野に携わる人は、そうしたリスクを認識する必要がある」とBBCに話した。

英サルフォード大学のリチャード・ウィトル博士は、ディープシークのアプリには「データとプライバシーに関してさまざまな懸念」があると指摘。ただし、アメリカで使われているモデルにも「多くの懸念」があるとする。

「利用者は常に警戒すべきだ。特に、新しく、非常に人気のあるアプリをめぐる誇大表現や、取り残されることへの恐怖に対しては」

イギリスのデータ規制機関である情報コミッショナー事務局(ICO)は、AIモデルの訓練に使用される自らの情報に関する権利を認識するよう、国民に呼びかけている。

BBCがICOに対し、オーストラリア政府の懸念を共有しているか尋ねたところ、「生成AIの開発者と導入者は、人々が自分の個人データの使用について、意味のある、簡潔で、簡単にアクセスできる情報を保有し、情報の権利を行使できるようにするための明確で効果的なプロセスを確実にもっているようにする必要がある」と回答。

「効果的な透明性確保の推進について、利害関係者と関与を続けていく。規制に関する期待が無視された場合は、行動を起こすことをためらわない」とした。

(英語記事 Be careful with DeepSeek, Australia says - so is it safe to use?

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cwy1p0l4y77o


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