2025年1月31日(金)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2025年1月29日

 「インスタ映え」は人気商品の大事な要素であり、食品を美しく飾るために様々な着色料が使用されている。当然のことながらそれらの安全性は十分に検証されているのだが、日米欧で使われている着色料赤色3号を米国食品医薬品局(FDA)が突然使用禁止にした。これを見て、米国で禁止された危険な添加物を日本は許可しているのはおかしいなどの議論が始まっている。

(ahirao_photo/gettyimages)

 しかしFDAが赤色3号を禁止した理由を見ると、驚いたことに安全性に問題があるためではない。それではなぜ禁止したのだろうか。問題の裏側を探ると、食品安全の規制をめぐる不可解な動きが見えてくる。

禁止の理由

 2025年1月15日にFDAが発表した文書は、以下のような内容だ。

・赤色3号は1960年に制定された米国食品医薬品化粧品法のデラニー条項に違反しているため、使用許可を取り消す。

・ FDAは、2022年に複数の団体から使用許可取り消しの請願を受けた。請願書は、赤色3号がオスのラットで発がん性を示したという論文を引用していた。しかしこれはラットだけで見られる現象であり、人でがんを引き起こすという証拠はない。

・一方、デラニー条項は、人または動物にがんを誘発することが判明した場合、食品添加物としての承認を禁止している。今回はそのような理由で禁止措置をとった。

・デラニー条項に基づいて認可を取り消すのはこれが初めてではなく、例えば2018年には香料の認可を取り消したことがある。

 一言でいうと、オスのラットでがんを引き起こすことを理由にして禁止の請願が出されたので、人の安全性には問題がないけれど、デラニー条項の規定により使用を禁止するというものである。この問題についてはすでに解説があるが、改めてその全容を紹介する。

デラニー条項

 赤色3号の歴史は古く、1907年に使用が承認された。ところが1980年代に、赤色3号を大量に投与するとオスのラットで甲状腺腫瘍ができることが分かった。

 腫瘍には、身体に害を与えない良性腫瘍と、異常な速度で増殖する悪性腫瘍があり、後者をがんと呼ぶのだが、ラットの甲状腺腫瘍のほとんどが良性腫瘍だった。また少量では腫瘍はできず、メスのラットでは大量に投与しても腫瘍はできなかった。

 さらにマウスでは性別にかかわらず腫瘍はできなかった。オスのラットだけで甲状腺腫瘍を起こす理由は、ホルモンが関係していると考えられている。

 添加物の規制は人の健康を守るためであり、ラットとの健康を守るためではない。だから使用許可を取り消す必要はないのだが、そこに立ちはだかったのが、「FDA長官は、人または実験動物にがんを誘発すると判明した化学物質が食品に含まれることを承認してはならない」という、食品医薬品化粧品法のデラニー条項だった。

 FDAは赤色3号が動物でがんを引き起こすことを理由にして、1990年に赤色3号の化粧品への使用を禁止した。同時に、食品や医薬品への使用も数年の猶予期間を置いて禁止することにした。ところがそのまま猶予期間が現在まで続いていたのだ。

 実は1958年にデラニー条項が制定された当時、発がん性化学物質はほとんど知られていなかった。だからFDA職員をはじめ関係者の多くが、この条項が広く適用されることはないだろうと思っていたという


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