念のために付け加えると、日本では着色料を添加物として取り扱っているが、米国では添加物と着色料は別の分類にしている。従って、食品に添加できる物質は、添加物と着色料とGRAS物質の3種類である。
赤色3号の安全性
FDAは「赤色3号は安全」と判断しているが、他の機関はどうだろうか。添加物の安全性評価や規制に関する科学的助言を行う国際機関が、国際連合食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が共同で設立したFAO/WHO食品添加物専門家会議(JECFA)である。
赤色3号についてJECFAは、人が一生涯毎日摂取しても健康への悪影響がないとされる1日あたりの摂取量(ADI:一日摂取許容量)を0~0.1mg/kg体重/日として、これ以下の量であれば安全性上の懸念はないとしている。日本では1948年に食品添加物として指定され、JECFAが示したADIを採用し、お菓子、漬物、かまぼこなどの食品に使用されている。
それでは実際にどの程度の量の赤色3号を摂取しているのだろうか。厚生労働省はマーケットバスケット方式で調査している。これは、食品添加物や農薬などを実際にどの程度摂取しているかを把握するため、スーパー等で売られている食品を購入し、その中に含まれている食品添加物等の量を測り、その結果に国民健康・栄養調査に基づく食品の喫食量を乗じて摂取量を推定するものだ。その結果、20 歳以上の人が摂取する赤色3号の量は、ADIの0.02%で、ADIを大きく下回っていた。
化学物質には用量作用関係、すなわちリスクの程度は量で決まるという法則がある。たとえば食塩を200グラム飲めば死ぬ可能性がある。毎日20グラムを摂取すると高血圧などの生活習慣病のリスクが高まる。しかし7グラム以下であれば一生の間毎日摂取してもリスクはない。赤色3号も同じで、毎日摂取しても安全な量のさらに1万分の2しか摂取していないのだから、安全性には何の懸念もないといえる。
カリフォルニアの影響
話は戻って、人での発がん性がないことが分かっている赤色3号を禁止することは論理的ではないことは多くの人が理解するところだ。だからFDAは1990年に食品や医薬品への赤色3号の使用を禁止する方針を示しながら、30年以上実施していなかったのだろう。
それが今回、禁止を決めた理由は、FDAの説明では、着色料の発がん性を懸念する複数のロビー団体や個人から2022年に出された請願だ。しかし、そのような請願はこれまでもあったので、請願が原因とは考えにくい。
もう一つの理由が、2023年にカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事が州レベルで赤色3号の使用を禁止したことだ。カリフォルニア州は環境保護意識が高い住民が多く、他の州とは違った厳しい規制をすることで知られている。
例えば、2035年までに州内で販売される全ての新車を、炭酸ガス排出ゼロのゼロエミッション車にすることを義務付けている。また2025年1月から、有機フッ素化合物(PFAS)を含む繊維や衣料製品の使用と販売を禁止している。トランプ氏などはこれを環境保護や公衆衛生の向上という目的のために経済や社会への影響をほとんど考えない「環境至上主義」と批判しているが、州の姿勢は変わらない。
カリフォルニア州が全面禁止に踏み切った理由のひとつは、赤色3号などの着色料と子どもの注意欠如・多動症(ADHD)との相関関係を示唆したカリフォルニア州環境保護局の報告書だ。しかし相関関係があるからといって因果関係があるとはいえず、着色料とADHDの関係は科学的には認められていない。この問題は詳しい解説があるのでここでは省略するが、カリフォルニア州が米国の代表ではなく、だからカリフォルニアがFDAを動かしたとはとても考えられない。