2025年2月25日(火)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2025年1月29日

見えるトランプ氏とケネディ氏の存在

 すると、残る可能性は、2024年11月にトランプ氏がロバート・F・ケネディ・ジュニア氏を保健福祉省長官に内定したことだ。このニュースをきっかけにしてケネディ氏が赤色3号を禁止するのではないかという噂が広まり、関連企業の株価が一時的に下落した。ケネディ氏の長官就任は議会が承認すれば実現する。

 ケネディ氏は長年にわたり、ワクチンの安全性や有効性に対して懐疑的な立場を取り、特に自閉症との関連性を主張して、反ワクチン運動を展開してきた。食品添加物に対しても非常に批判的な立場を取り、着色料が子どもたちにADHDを引き起こすと繰り返し主張してきたのだ。

 さらに、GRAS物質を見直すことも主張している。GRAS物質はFDAの審査を受けずに添加物として市場に出回ることを可能にする制度であり、許認可の「抜け穴」をふさぐために審査を厳格化するとしているのだ。

 トランプ氏は「アメリカを再び偉大にする(MAGA)」という公約を掲げているが、ケネディ氏はこれをもじって「アメリカを再び健康にする(MAHA)」という公約を掲げて、添加物やワクチンの規制強化を主張している。トランプ氏は、選挙で直接選ばれていない官僚、高級公務員、行政職員のネットワークがトランプ氏の政策に反対して情報を操り、アメリカの政治を牛耳っていると主張し、これを闇の政府「ディープステート」と呼んでいる。

 そのような官僚を排除するとして、大統領就任後、直ちに高級官僚の大量解雇が始まった。特に問題が大きいのは、議会乱入事件などの容疑でトランプ大統領を起訴した捜査に関わった職員を解雇するという「粛清人事」を断行したことだ。

 問題はさらに発展して、FDAはじめ保健福祉省傘下の機関による報道発表やSNSをすべて止めたのだ。今後、大統領が任命する担当者が情報の内容を検討して、政権の意向に沿うものだけを発信するという。

 ロシアや中国などの強権主義国家と同じ手法を取り入れたことは信じられないが、それはトランプ氏が宣言していたことである。FDAがこのような状況を予見して、赤色3号の使用を「自主的に」禁止したというのが真相だろう。

疑問符が付く消費者庁の対応

 食品の安全は科学で判断することが世界基準である。しかし、リスク管理策を作るときには、民意や社会経済状況など様々な要素を勘案することになる。特に重要な要素は安心対策であり、そのために科学的な根拠を超えた過剰な対策を実施することがある。

 例えば、米国はPFASについて各国とはけた違いに厳しい水道水基準を実施した。今回の赤色3号の禁止はそのような安心対策でさえなく、単なるケネディ保健福祉省長官とトランプ大統領への忖度である。

 「米国が禁止した」という事実だけ見て、日本でも禁止すべきという意見がある。そのような主張に科学的な根拠があるのか、厳しく検証する必要がある。

 日本の消費者庁の対応にも疑問がある。「食用赤色3号のQ&A」には、「米国における決定の内容を精査し、米国以外の諸外国における動向なども踏まえ、科学的な見地から食用赤色3号の食品添加物としての使用について検討していく予定」と記載しているのだ。

 FDA自身が「禁止措置は安全性とは無関係」と明言しているのだから、改めて「食品添加物としての使用について検討」する必要はないはずである。にもかかわらず、あえて検討を明言したことが、安全に対する不安を呼ばないことを望む。

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