2025年2月25日(火)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2025年1月29日

 ところがその後、添加物や農薬の開発が進み、それらの使用が大きく増加し、それとともに化学物質の毒性試験が広く行われるようになった。すると多量の化学物質を投与すると実験動物でがんが起こる例が確認されるようになった。

 そのような化学物質は、添加物に使用する程度の微量であればがんを起こさないことが分かっていても、この条項のために禁止せざるを得ない。さらに、野菜や果物には、微量ではあるが、多くの種類の天然の発がん性物質が含まれることも分かってきた。すると、ほとんどすべての食品を禁止しなくてはならないことになる。

 この問題を解決するために、1982年にFDAは、がんを引き起こすリスクが無視できる程度に小さければ、添加物として承認するという内規を採用した。具体的には、がんを発症するリスクが100万人に1人以下である場合は、そのリスクは無視できるとする「デ・ミニミス」基準である。デ・ミニミスは「些細なことは無視する」という意味だが、これがデラニー条項のデ・ミニミス例外として知られるようになり、FDA以外のリスク評価機関でも広く使用された。

 「100万人に1人は些細ではない」という意見もあるが、日本では100万人に7600人ががんになっている。都道府県で大きな差があるので、この数は全国平均である。これが7601人以上にならないように対策をしようということなので、十分ではないだろうか。

 1988年に環境保護庁(EPA)はデ・ミニミス例外を採用していくつかの農薬に対する制限を緩和した。これには反対運動が起こり一時は緩和が取り消されたが、1996年にEPAは農薬へのデラニー条項の適用を除外した。他方、FDAは食品添加物と化粧品と医薬品の除外は行わなかった。

GRAS物質

 デラニー条項が制定された1958年にはもう一つの仕組みが取り入れられた。それがGRAS(Generally Recognized As Safe)物質、すなわちFDAにより「一般に安全と認められる」と評価された化学物質である。

 この制度は、長年の食経験や科学的な知見に基づいて際立ったリスクがないとみなされた物質であり、安全性の試験を実施せずに添加物として利用できる。その背景には安全のための規制が大きく変わったことがある。

 かつては、添加物や農薬は危険であることが分かったものを禁止するという方式であり、禁止された物質を登録する「ネガティブリスト制度」だった。この制度の利点は、リストにはない限り、新しい物質の導入が迅速に行えることだが、欠点としては、新しい物質の安全性が十分に検証されているのかについて、消費者が不安を感じる可能性があることだ。

 その後、安全性が証明された物質に限って使用を許可する「ポジティブリスト制度」に移行した。このリストに記載されないかぎり、利用できないという方式である。この制度で添加物や農薬の安全性は一段と向上したが、欠点としては、新しい物質の承認に時間がかかることである。

 こうしてネガティブリストがポジティブリストに置き換えられていったのだが、GRAS物質はポジティブリストの一つであり、そこに記載されていれば添加物として利用できる。記載されていない物質を添加物として使用するためには、製造業者はその物質の安全性を証明するためのデータをFDAに提出し、FDAが安全性を評価し、使用を許可するかどうかを決定する。赤色3号はGRAS物質ではなく、FDAの許可を得た着色料である。


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