2025年1月13日(月)

食の「危険」情報の真実

2025年1月13日

 サイエンスライターの渡辺政隆さんが2024年秋に「沈黙の春」(光文社古典新訳文庫)の日本語新訳を発刊した。「沈黙の春」(1962年出版)はレイチェル・カーソン氏の著書で、農薬から環境問題を考えるきっかけを多くの人に与えた、環境保全活動や環境教育のバイブルのような名著である。

農薬は危険なものなのか(coffeekai/gettyimages)

 タイトルはDDTをはじめとする農薬を大量に散布したせいで、農薬に汚染された虫を食べた鳥も死滅し、鳥の鳴かない沈黙の春になってしまった状況を意味している。この本は、読み物の体をなしながら、科学論文のように大量の文献に基づいて詳細に解説され、主張が書かれている点でも注目された。当時は大きい賞も与えられ、DDTの世界的な使用禁止につながった。

 日本では1964年に『生と死の妙薬-自然均衡の破壊者〈化学薬品〉』というタイトルで青樹木簗一氏の訳本が出版され、1974年に原題のサイレント・スプリングの直訳「沈黙の春」と改題され出版された。今回、渡辺さんはページの関係で旧訳の文庫版では省略されていた文献リストなども載録し、原文になるべく忠実な形で翻訳した。

 レイチェル・カーソン氏は農薬使用の全面禁止を訴えたわけではなく、農薬が自然界の調和を破壊し、回復力(レジリエンス)を奪っている、農薬使用は最低限に抑えるべきだと訴えかけている。渡辺さんは「レイチェル・カーソン氏が重視したのは自然界のバランスで、それを台無しにする農薬の無自覚な大量散布を批判した。それに対して農薬企業やその関係者は、農薬の使用なくして農産物の安定供給はありえないと論点をすり替え、カーソン氏の人格批判まで繰り広げた」と指摘する。


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