農薬のメリット
農薬は、農薬取締法によって、食品としての安全性、散布する作業者への安全性、環境への安全性、作物への安全性(病害虫をやっつけても作物が守られる)などの観点から厳しく、大きな費用をかけて審査され、上市されている。用法・用量を守ることで安全で有効に利用することができ、その安全性は日々に高まっている。
農薬は病害虫による被害を小さくし、商品の見た目を改善し、作業の効率化に役立ち、結果的に収量減少を防止し、生産者の収益は増大する。実際に日本植物防疫協会の報告書(93年)によると、下表に示すように収量の向上、作業の効率化にもつながっている。
実際にりんご、キャベツ、キュウリなどは農薬を使わないと収量は半分以下になる。日本のように病害虫の被害を受けやすい温暖で湿潤な環境で農作物を栽培するのがいかに難しいかが理解される。
食の提供者にも変わる意識
農作物を扱う事業者には、農薬に不安をもつ消費者に向けて農薬取締法をもとに自主基準をつくるところも多かった。例えば、コープこうべは、88年からフードプランというオリジナルブランドを立ち上げ、生産者に農薬使用回数を一般栽培の2分の1以下とする規制をかけた。「食べる人だけでなく、作る人、作物や動物、産地の自然まで含めて健全で幸せであること。そんな社会の仕組みをつくる、それがきっと本当に未来に対して持続する社会につながる」という理念が込められていた。
91年に平飼いたまごの提供を皮切りに、アスパラガスや鶏肉、ブリ、和牛肉、牛乳と、供給商品を広げていった。産直交流会を通じて生産者と消費者が情報を共有する場も提供している。05年には環境に配慮し、食品の安全・安心をつくる、より確かな管理システムも導入した。
こうして「減農薬」を通じて食の安全をアピールしてきたフードプランだが、コープこうべは23年、農薬使用回数を一般栽培の2分の1以下とする規制を無くすことを決めた。農林水産省の国際水準GAPガイドラインに準拠した「生協版GAP」という形でフードプランのコンセプトを継承し、フードプランで目指した食品安全、労働安全、環境保全に人権保護、農業経営管理を加えた取り組みを継続しつつも、農薬使用の規制を削除した。
その裏には、これまで目指してきた農薬の使用を減らすことが科学的に正しいのか? との疑問が担当者にあったようだ。環境の変化によって農薬の使用制限を厳守することは難しいという声が生産者からもあがるようになっていた。
例えば、生産者が高齢化し、除草の負担が大きく、中山間地の足場の悪い地域での労災の危険が高いとか、予想外の病害虫の発生によってあと1回多く農薬を使えたら収量が安定し、品質も確保できるなどだ。なにより、農薬に対して使用回数が少ないことが「安全」との誤認を与えているのではないかという心配もあった。