2025年4月23日(水)

モノ語り。

2025年2月9日

 ある時まで、ご飯を炊く時は某フランスメーカーの琺瑯鍋を使っていました。おいしいのですが、「はじめちょろちょろ、中ぱっぱ、赤子泣くとも蓋とるな」という通り、手間がかかっていました。そのため、手間いらずの炊飯専用「土鍋」があると聞いたとき、信じられませんでした。中強火で13分、あとは火を切って20分蒸らすだけ(3合炊きの場合)。

伊賀焼窯元長谷園「かまどさん」(写真・鈴木優太)

 この土鍋「かまどさん」を生み出した伊賀焼窯元長谷園8代目の長谷康弘さんに、お話を聞きました。

 長谷園のホームページや取説は分かりやすいばかりか、その分量にも驚かされます。そこには「メモ魔」だった康弘さんの父で7代目の優磁さんのDNAが受け継がれているのです。

 「私が実家に戻ったとき、家業は危機的な状況にありました。建材として使われるタイル生産が事業としては大きくなっていたのですが、阪神淡路大震災の影響で注文が全くなくなり、在庫の山になっていました。そんな時、父が竈のご飯を土鍋で、しかも火加減の手間なし、吹きこぼれなしで再現することができないかと思案して、それを大量のメモに書きつけていたのです」

 10年の歳月をかけて「かまどさん」は完成しました。ブレークスルーとなったのは、不良品とされていた肉厚の土鍋でした。通常の土鍋は重くならないように厚みを調整するのですが、厚くすることで火加減なし、吹きこぼれなしを実現したのでした。それには伊賀特有の土も影響しています。

 「伊賀の地は、400万年前、琵琶湖の湖底だったのです。この地層から採れる陶土は、炭化した植物や微生物をたくさん含んでいるので、多孔性の素地になります。それが、蓄熱性と耐火性を高めているのです」


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