ファーウェイ以外にも多数規制
米国が睨(にら)みを利かせる覇権争い
米国政府の規制対象はファーウェイだけにとどまらない。ブルームバーグの報道によると、米国政府は中国の監視技術を持つ企業5社をエンティティリストに追加することを検討し、米国の重要技術利用を事実上禁じることを検討しているという。具体的には、曠視科技(メグビー)、杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)、浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)、美亜柏科信息(メイヤ・ピコ)、科大訊飛(アイフライテック)の5企業があげられている。
表向きの理由は人権と情報漏洩である。記事を引用すれば、「トランプ政権はこれら企業が新疆ウイグル自治区でのウイグル族抑圧に果たしている役割を懸念」ということと「スパイ活動で使われる可能性についても憂慮」が理由として列挙されている。
この5社のうち2社を1年前と半年前に筆者が取材した時には、中低級部品は中国国産品で調達しているが、高級部品は米国から輸入しており、それを完全に国産製品で代替するにはあと数年かかると言われた。その状況は、大きくは変わっていないだろう。一部報道に、米国から調達している部品は国産品で代替できる、との記述を見かけるが、完全代替ではなく、不完全代替とみるべきだ。
さらに、米国は中国製ドローンにも睨みを利かせている。米国国土安全保障省(DHS)は、中国製ドローンの使用について、情報漏えいのリスクを警告している。これは米国・カナダで用いられているドローンの8割を占めると言われている民間ドローン最大手の中国企業・大疆創新科技(DJI)を意識したものであると考えられる。DHSはドローン(UAS, unmanned aircraft systems)の脅威について、(1)武器化あるいは密輸の道具、(2)禁止された地域の監視と偵察、(3)知的財産の盗難、(4)意図的な混乱あるいは嫌がらせ、としている。
ファーウェイに代表される通信関連機器と、前述の監視関連の5企業、およびDJIに代表されるドローンの共通点は三つあると考えられる。それは、(1)先端技術であること、(2)軍事転用が可能であること、(3)中国が米国に技術水準で足早に追いついているか、一部追い抜いている部分もあること、である。5月に入って急速に悪化した米中関係の根幹にあるのは、これまでの関税合戦から一段階次元の上がった「技術覇権」、さらにその先の「軍事覇権」をかけた争いの可能性が見え隠れしている。
米国企業の部品を使用できなくなったことで、ファーウェイは代替部品を探す必要が生じてきた。中国企業は、製品の一部は米国以外の海外、残りは中国国内において調達しなければならないわけだが、米国以外の海外でも、米国に関連が深い企業はコア部品のファーウェイへの輸出規制を発表し始めている。中長期的に中国がコア部品の国内製造に成功する可能性があるとはいえ、一時的には中国の技術の高付加価値化が停滞することは避けられないだろう。ハードウェアの技術革新はしばし望みがたい分野もありそうだ。
一方で、アンドロイドのOSやソフトウェア分野に関しては、まったく異なった技術革新が新たになされる可能性を想定しておく必要があろう。これまでハードウェアの技術革新にを切って集中させたリソースがソフトウェア分野へ割かれることで、新たなイノベーションが生まれる可能性も否定できない。