制裁で見えてきたコア技術の「先の先」
今回のファーウェイに対する制裁により、見えてきたことがある。それは、本当に不可欠なコアの技術を持っている企業はどの国のどの企業か、というサプライチェーンの一端が明らかになってきたのだ。たとえば、ファーウェイは以前に規制されたZTEと異なり、傘下に半導体メーカーHiSiliconがあるから、比較的問題は軽微だと言われてきた。だがその半導体メーカーはチップ設計で英ARMに頼っており、ARMは今回の米国規制を受けて取引停止となりそうだ。
また、そもそも半導体の製造にはレアアースが必要である。その産出量において中国は優位にあり、米国による対中制裁第四弾の詳細案から外されていることに加えて、習近平国家主席は5月20日にレアアース関連施設を視察しており、コアのコア材料であるレアアースが交渉材料の一つになりそうな気配である。高付加価値品の製造にとって本当にコアなものは何なのか。米中両国においても、市場においても模索が続いているように思われる。
さらに論理的に突き詰めていくとどうなるのか。モノを作るには電気が、電気をつくるためにはさまざまな資源が必要、ということになる。自由貿易が当たり前だった時代には、あらゆる地域からの代替輸入が可能だったため、「コモディティ化」という名称に代表されるように、資源はどこからも調達可能であり、安価なものになっていた。
だが今後、国境を跨(また)いだ取引が自由でなくなるという条件となるならば、その規制度合いによってコモディティの希少化が増す可能性がある。それを見越した大国は、資源国との関係を強化する必要が生じる。中国の「一帯一路」構想はそれに準じた考え方であると解釈できなくもない。米国にとっても事情は同じであろう。
そうなると、行き着くところは、資源を巡る争いである。地政学リスクが増すと同時に、途上国であるほど、つまり国際政治における交渉力が弱い国ほど、相対的に高いコモディティ価格を支払う必要が生じる。すぐにではないにせよ、途上国ほどインフレの懸念が中長期的に生じることも念頭に置く必要がありそうだ。
もちろん、資源にもいろいろある。コモディティもそうだが、人的資源もあれば、技術も資源だ。一部投資家からは、台湾の技術が争点になるのではないか、という声も聞かれる。台湾にある半導体受託製造世界最大手のTSMCは米国の規制に対して、ファーウェイへの出荷には影響が出ていないとの認識を示している(5月23日時点)が、米中の摩擦は、米中だけにとどまらず、他のさまざまな地域にまで今後も波及していくと考えておくべきだろう。そこには、先に指摘した米国技術を用いた日本企業による輸出の規制も当然含まれる。
米中の資源や技術を巻き込んだ覇権争いによる日本企業への間接的な影響が広がるが、その観点のみに目を奪われてはいけない。農業や防衛産業の貿易に関して、トランプ大統領がいつ日本から直接成果を求めるか、決して油断できない。安倍政権は現状対米交渉を円滑にこなしているように思われるが、米国側の要求は時間と共によりその水準が高まっていくだろう。米中間の対立による余波だけでなく、その先にあるリスクにまで目を凝らす必要がある。
■米中制裁ドミノ ファーウェイ・ショックの先
Part 1 ファーウェイ制裁で供給網分断 米中対立はコア技術と資源争奪戦へ
Interview 日本企業は機密情報管理体制の構築を急げ
Column レアアースは本当に中国の切り札なのか?
Part 2 通信産業の根深い「米中依存」分断後の技術開発の行方
Part 3 ファーウェイ・ショックを日本は商機に変えられるか
Part 4 「海底ケーブル」と「元経済圏」中国の野望を砕く次なる米制裁
Part 5 激化する米中経済戦争 企業防衛の体制構築を
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