コロナウイルスにより訪日客は激減し、さらに外出を控えるようになった人も多く、飲食店、ホテルなどの経営は大きな打撃を受けているが、外出禁止が命じられた欧州諸国米国のカリフォルニア州などでのビジネスへの影響は、日本の比ではない。雇用、所得、消費、生産、あらゆる面の急速な縮小は、景気後退などという生易しいものではないとの声も聞こえる。コロナウイルスはエネルギー問題も複雑にしている。
国際エネルギー機関(IEA)幹部は、3月中旬から低迷する原油価格により再エネ、省エネ設備導入が停滞する可能性があると先週述べたが、コロナウイルスにより中国での太陽光パネル、風力発電設備の製造中断が引き起こされ、結果世界の再生可能エネルギー設備導入に多少影響を与えることになりそうだ。
だが、サプライチェーンよりも大きな問題は、停滞する経済情勢が再エネ・省エネ設備への需要を直撃することになり、その影響が大きいことだ。欧州でいち早くコロナ対策を取ったイタリアではエネルギー需要が大きく減少し、エネルギーの卸価格も下落している。結果として投資は難しくなる。
無論、影響はエネルギービジネスには留まらない。米国では3月13日から14日時点の世論調査で働く人の18%が、解雇あるいは勤務時間の削減があったと答えた。その後状況は悪化している。カリフォルニア州などで外出禁止令が出された後、3月19日時点では、全米の小企業の時間給労働者のうち仕事のある人が、
海外からは外出禁止になっていない日本の状況に懸念すべきとの指摘もある。欧米の姿は明日の日本かもしれない。
影響を受けるエネルギービジネス
欧州委員会は、2050年に温室効果ガスの純排出量ゼロを目指す欧州グリーンディールを昨年12月に発表した。その中では温室効果ガス削減政策として輸送部門での電気自動車、発電部門での再エネの導入拡大などが想定され大規模な投資が見込まれている。しかし、コロナウィルスにより景気が低迷することから、チェコ・アンドレイ・バビシュ首相は、「欧州が感染の中心になったいま、グリーンディールを諦めコロナ対策を進めるべき」と発言した。
欧州内では、石炭火力に電力需要の50%を依存し、温室効果ガス削減が難しいチェコの首相発言として大きな話題にならなかったが、多くの製品のバリューチェーンが寸断され、従業員が出社できない状況はグリーンディールが想定する再エネ、省エネ技術導入にも影響を与えることになりそうだ。
中国では太陽光パネル、風力発電設備、蓄電池製造工場の多くが操業一時中断を余儀なくされた。風力発電設備については欧州、米国、蓄電池は韓国などでの製造もあるが、太陽光パネルの大半は中国で製造されており、今年の世界の太陽光発電設備導入量は、前年比マイナスになるとの予測も出されている。加えて、コロナウィルスによる景気低迷が家庭用を中心とした小規模設備導入を直撃するとの見方もでている。
IEA幹部は、コロナ対策として太陽光、風力、水素、電池、二酸化炭素補足・貯留分野への投資により、経済にも好影響を与え、同時に経済の低炭素化を促す効果があると主張している。しかし、欧州でいち早くコロナ対策を実行したイタリアでは、電力需要の42%を占める産業用需要が大きく減少し、全需要量も前年同期比10%近く減少している。
さらに、卸売り電力価格は約20%、ガス価格も約25%下落しており、需要と価格両面から再エネ設備などへの投資が難しい環境になってきている。フランスでも電力需要量減少が明らかになっている。コロナ対策が長引けばエネルギー需要低迷、価格下落も長期化し、再エネ、省エネ設備導入にも影響を与えることになりそうだ。
米国でも、カリフォルニア州に電気自動車製造工場、ニューヨーク州に太陽光発電関連設備と電池製造工場を持つテスラが、従業員の通勤が不可能なことから両工場の操業停止を発表したが、カリフォルニア州、ニューヨーク州など人口の多い州が外出禁止のコロナ対策を導入したことからサービス業を中心に雇用に大きな影響が生じ始めている。