2024年7月16日(火)

World Energy Watch

2019年12月10日

 スペイン・マドリードで気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)が12月2日開幕した。アントニオ・グテーレス国連事務総長は、開幕式典で気候変動は長期的な課題ではなく、いまそこにある危機とスピーチした。各国の取り組みを定めたパリ協定が目標とする産業革命以来の気温上昇を2度、可能ならば1.5度に抑えるためには2050年までに温室効果ガスの排出量をゼロにする必要があるとも訴えた。

 欧州連合(EU)でも11月下旬EU議会が気候変動は非常事態にあると決議し、同時に2030年のEUの温室効果ガス排出目標を1990年比40%削減から55%に引き上げるよう求める決議も行った。ただ、満場一致ではなく、両決議案の賛成票は全投票の64%に留まった。賛成票を投じなかった委員の中からは喫緊の課題ではあるが、非常事態と呼ぶのは適切でないとの声があった。

(Petmal/gettyimages)

 日本でも、スウェーデンの高校生グレタ・トゥーンベリさんの国連気候変動サミットでのスピーチ、「人々は被害を受け亡くなっている。全ての生態系は崩壊しつつあり大規模な絶滅の始まりにいる。だけど、あなた方が話しているのはお金と永遠の経済成長ばかり」を支持する声もある。

 しかし、温室効果ガスの排出量が温暖化にどのような影響を与えているのか、さらに気温上昇が世界に何をもたらすのか、分からないこともまだ多い。トゥーンベリさんは「科学は示している」というが、気候変動、地球温暖化の科学ではまだ分からないことが多い。大規模な絶滅の始まりにあると断定することには無理がありそうだ。

 日本を初めとしたいくつかの国は、気候変動問題に非常事態として取り組むには安全保障、コストの面から難しい状況に直面している。戦後75年を来年迎える日本は、これから急激な人口減少に直面し今後75年間で人口は半減する。このままの状況が続けば200年後には人口は今の約10%になると推定されている。人口が経済力、国力に直結する訳ではないが、1億2600万人の人口を抱える国には急激な人口減少は大きな問題を引き起こす。最優先課題は温暖化対策ではなく、社会の維持だ。

世界は非常事態にあるのか

 2019年5月に行われたEU議会選挙では環境政党が躍進し、気候変動問題への取り組みに熱心なEU議会はさらにその傾向を強めた。11月28日EU議会は気候変動問題に関する2つの決議を行った。気候変動、環境非常事態を宣言し、欧州委員会、加盟国、主要国などに対し手遅れにならないうちに具体的行動を取るように促す非常事態宣言決議とCOP25に関連する決議だった。

 COP25決議の中では、2050年までに純排出量をゼロにすること、「欧州グリーンディール」に2030年温室効果ガス55%削減を織り込むこと、航空機、船舶の排出削減に取り組むことなどが欧州委員会などに対し要求された。

 非常事態決議は賛成429、反対225、棄権19、COP25に関する決議は賛成430、反対190、棄権34で可決されたが、反対した議員からは非常事態との言葉はパニックを連想させ適当ではないとの声もあった。EU議会の最大政党中道右派の欧州人民党の環境担当議員は、気候非常事態は削減に必要な真の議論を隠す欺瞞的な考え方であると述べている。さらに、非常事態は報道の自由、民主主義のような基本的な権利を弱体化させると解釈される危険性があると指摘している。

 決議の中で触れられている欧州グリーンディールは12月11日欧州委員会から発表される予定だが、その中には2050年までに純排出量ゼロ達成を目標とする欧州気候法案を2020年3月までに提出すること、2030年に1990年比温室効果ガス40%削減を55%削減にかさ上げする具体的な計画を2020年10月までに提示することが、織り込まれているとされている。

気候変動対策は分断を招く

 EU議会決議への賛成が3分の2に達しなかったように、EU内部では気候変動対策を急速に進めることに賛成でない国がある。2050年純排出量ゼロ目標には2019年3月の首脳会議では西側8カ国のみが賛成しており、EUが分断されていると報じられたが、その後ドイツが支持に回り多くの国が追従した。しかし、依然ハンガリー、ポーランド、チェコは反対しており、欧州委員会の提案が受け入れられるか不透明だ。

 2030年40%削減目標の引き上げについても意見は分かれている。今年6月当時の欧州委員会ユンカー委員長は、2030年目標の引き上げには反対と表明した。合意内容を見直すのではなく、今の目標達成に向け努力すべきとの意向だった。さらに、今年10月フランス、スペイン、オランダなど西側8カ国が、欧州委員会フォンデアライエン新委員長に2030年の削減目標を55%に引き上げることを要請する書簡を提出した際に、ドイツは書簡への署名を拒否したと伝えられた。

 なぜ意見は一致しないのだろうか。それは、気候変動問題には不確実性が伴うからだ。非常事態宣言の前提には、各国が温室効果ガスの排出削減目標を設定したパリ協定が目標とする2度、可能ならば1.5度を達成するための二酸化炭素濃度の目標がある。しかし、二酸化炭素濃度と温度上昇との関係はシミュレーションによる予測でしかない。2100年の温度上昇幅も5度と伝えられることが多いが、予測には0.3度から4.8度の幅がある。予測の上限値であれば、5度に近いということだ。

 不確実性が高い気候変動問題にどこまで資金を投じることができるのか、国により事情は様々だ。欧州投資銀行(EIB)は石炭関連事業への融資中止に加え、今年11月には天然ガス関連事業への融資も中止する方針を決定した。温室効果ガスを排出する化石燃料削減を気候変動対策の象徴とするためだ。”また、欧州中央銀行(ECB)も環境問題を政策運営に取り入れる意向をしめている。これに対し、ドイツ中央銀行総裁とフランス出身ECB理事は、気候変動対策は政治が決めることでECBの役割ではないとコメントを出した。"

 金融機関の中でも様々な意見があり欧州内の取り組みも一枚岩ではないが、日本では環境問題が第一であり自国の取り組みが不十分とする報道がある。


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