2024年7月16日(火)

World Energy Watch

2019年12月10日

最も取り組みが遅れている国、日本?

 COP25開催に合わせ、ニュース番組「報道ステーション」は気候変動問題を取り上げていた。G7(主要7カ国)各国が石炭火力廃止を決めていく中で、唯一日本だけが石炭火力を相変わらず続けていると伝え、さらに数日後の番組では、COP25の会場で日本が石炭を続けていることが取り上げられ環境NGOが日本を非難したと報道した。石炭を続けている理由として競争力があるからとの経済産業省のコメントを紹介していたが、環境NGOの主張をほぼ一方的に伝える内容だった。

 この報道の中で抜けている視点は、G7の中で日本だけが他国と天然ガスパイプラインも送電線も連携しておらず、さらにエネルギー自給率も極端に低いことだ。日本が石炭を止められない大きな理由の一つは安全保障問題だが、報道では全く触れられていない。G7各国のエネルギー自給率は図-1の通りだ。他国との連携がない日本は、安全保障上エネルギー供給を可能な限り多様化するしかない。供給源の多様化を図ることが可能な石炭を止めるのは無理だ。

 さらに、石炭には価格競争力があることも具体的には伝えられていない。石炭は1973年のオイルショック以来化石燃料の中では最も価格競争力がある。今年10月の日本着価格から計算した化石燃料の発電コストは図-2の通りだ。石炭から他の燃料に切り替えをすれば電気料金は大きく上昇することになる。

 いま日本が直面している危機は、人口減少に伴い社会が維持できなくなることだ。気候変動問題取り組みの前にまず社会の維持が先決だ。そうでなければ、持続可能ではないし気候変動問題に取り組むこともできない。

2020年は分水嶺

 1945年の終戦時7200万人だった日本の人口は増加を続け世界10位の人口大国になった。2008年に1億2800万人に達し、そこから減少が始まった。出生率の低下と平均寿命が延びている結果少子高齢化が進んだが、社会福祉人口問題研究所によるとこれから人口は級数的に減少する。戦後75年になる2020年からの次の75年間で日本の人口は今の半分の6300万に減少すると研究所は予測している。結果、欧州主要国の人口を下回るようになる(図‐3)。もう少しなだらかな人口減を予測するのは国連だ。国連の2100年の日本の人口予測は7500万人だ。いずれにせよ、これから75年で終戦時の人口に日本は戻って行く。

 人口が減少しても経済成長は可能だ。人口減少が国力の衰えを即座に意味する訳ではない。しかし、日本は他国にはない問題を抱える。1億2800万人に合わせたインフラを整備しているからだ。人口が減少する中で、鉄道、道路、電気、上下水道、公共設備などのインフラの維持は並大抵なことではない。大きな負担になる。

 人口減少を食い止める、出生率を上げることを考えなければならない。待機児童をなくすなどの様々な少子化対策が採られているが、最も効果のある対策は働く人の収入増だ。少子化の原因は結婚しない人が増えていることだが、その大きな理由の一つは収入にあるからだ。収入にかなり影響を与えるのはエネルギーコストだ。東日本大震災後産業用電気料金は最大時約4割上昇した。製造業では1兆2000億円負担増になったが、人件費の約4%に相当する額だ。電気料金は収入に結果的に大きな影響を与えている。

 気候変動への取り組みの遅れだけに注目するのではなく、持続的な社会とは何かについても考える必要がある。

  
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