World Energy Watch

2019年10月5日

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 以前シンガポール国立大学でのシンポジウムに参加し、法学部の環境法専攻の教授と立ち話をした際に、ドイツ製を中心とした大型SUV(Sport Utility vehicle)がシンガポールで増加していることを教授は嘆いていた。東京23区と同程度の大きさの島国シンガポールで大型SUVで出かける必要がある場所はなく、二酸化炭素(CO2)の排出量も多い車であることからSUVは「社会で受け入れられない車」(Socially Unacceptable Vehicle)を略したものと手厳しくコメントしていた。

 教授の怒りにもかかわらず、2010年代前半からSUVの販売台数は世界中で増加している。米国ではセダンタイプの販売比率が3割を下回るまで落ち込み、SUV主体の小型トラックに分類される車種が7割を超えた。米国ほどの比率ではないが、日本でもSUVの販売台数は毎年伸びている。しかし、SUVにも逆風が吹き始めたようだ。その切っ掛けは車体重量が重くCO2排出量が多いため温暖化対策に逆行するとの主張だったが、9月上旬にポルシェのSUVがドイツで引き起こした事故によりベルリンではSUVの市内乗り切れ禁止論まで登場してきた。

(Jason Reed/gettyimages)

温暖化対策を求められる自動車業界

 国連の気候変動枠組み条約の事務局はドイツ・ボンに置かれている。日本からボンへ出張するには、フランクフルトに飛び鉄道に乗り換えて行くのが普通だ。高速鉄道の新線はライン河を離れ最短の内陸部を走るが、ライン河沿いの旧線に乗車すれば有名な古城もローレライも目にすることができる。ボンで開催される国連の会議にトヨタ自動車の方と一緒に出張した折に、トヨタの方がフランクフルトは自動車ショーの関係で何度か来たことがあると話してられたが、今年9月開催のフランクフルト自動車ショーにはトヨタ自動車は参加しなかった。

 東京でもデトロイトでも自動車ショーは縮小気味だが、温暖化対策を求めショー会場に押し掛ける人たちが出てきた。今年のフランクフルト会場には、一般公開日初日の9月14日に温暖化対策を要求する自転車の大群が押し寄せた。その数は1万5000台から2万5000台だったと報道されている。温暖化では輸送部門、中でも自動車からのCO2排出量が問題になっているからだ。米日欧州主要国の運輸部門と自動車からのCO2排出量は表-1の通りだ。

 自転車の抗議を主催した環境関連団体が槍玉にあげたのがSUVだった。共催者のグリーンピースは「自動車産業は環境を壊すことで収益をあげている。現在は気候危機の真っただ中にある」と非難するコメントを出している。他の環境団体は「自動車業界には数年前に得られていた社会の支持はもはやなく、業界は圧力にさらされている。自動車ショーは過去の遺物だ。将来はバス、鉄道、自転車にある。排出が多いSUVなどの自動車は不要だ」とのコメントを出し、展示されていたSUVに「気候殺し」とのカードを掲げた。

 環境団体の主張を真に受けるわけにもいかない。自動車産業はドイツの国内総生産額の約5%を生み出し、部品業界を含む雇用は82万人、2018年の輸出額は2640億ドル(約28兆円)にも達するドイツ有数の重要産業だ。しかし、自動車ショーの直前にベルリンで発生した自動車事故もありSUVに対する市民の目は厳しくなってきた。

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