2024年12月7日(土)

WEDGE REPORT

2020年2月7日

 バッテリー稼働の電気自動車(BEV)は、内燃機関自動車との比較では部品が3分の1になると言われており、自動車専業メーカーでなくても比較的簡単に製造できると言われている。中国では電気自動車(EV)メーカーが500社近くに達したため、中国政府は実績のあるEVメーカの車だけを購入補助金の対象にする制度変更を昨年6月に実施し、EVメーカーの淘汰を始めた。中国政府の狙いはメーカー数を50社以下に絞ることにあると言われているが、補助金政策変更により中国のEV販売は昨年半ばより成長が止まった。

 しかし、EV製造を簡単に行うことができるのは中国メーカーだけかもしれない。EV事業に乗り出すため開発を進めていた英ダイソンは、昨年10月開発中止を発表しEV事業を諦めると発表した。価格競争力のある自動車製造は簡単ではないと発表している。EV事業者の数も、競争相手になる企業も減りEVの世界ではテスラが一人勝ち状態になってきたようだ。米国以外、欧州でも中国でも販売上位にテスラ・モデル3が顔を出している。

(jetcityimage/gettyimges)

 今年1月下旬、マイクロソフト本社などがあり北のシリコンバレーと呼ばれる、シアトル近郊のベルビューに出張した際にモールを覗いたところテスラのショールームがあり、モデル3を見に訪れる人で賑わっていた。テスラの将来については、強気、弱気が相変わらず交錯しているが、株価は上昇を続け、昨年の最安値との比較では5倍以上、今年になってからの1カ月で2倍以上の上昇になっている。何がテスラ株を押し上げているのだろうか。テスラの将来を暗いと予測していた投資家の行動も皮肉なことに株価を押し上げている。

減速する中国EV市場

 中国政府は新エネルギー車(NEV)と呼ばれる、燃料電池車、電気自動車の導入政策を採用し、市場拡大を支援していた。昨年からは各社は販売するNEVの性能と台数に合わせクレジットを獲得可能な制度が導入され、導入を進めているメーカはクレジットの売買でも利益を上げることが可能になった。

 しかし、昨年6月中国政府はNEV支援制度を見直し、航続距離が250キロ以下のEVについては補助金打ち切り、他のEVにも補助金半額への減額決定を行うと共に、製造許可条件を見直し研究開発費資金と販売実績がない企業を淘汰する方針を打ち出した。

 この制度変更により、翌7月から中国のEV販売は大きく低迷することになった。2019年1月のEV販売は前年同期比199%増で始まり、その後も前年比二桁増を続けていた。6月の販売実績は16万台を超え、前年比97%増だった。EV(プラグインハイブリッド‐PHEV‐を含む)の乗用車の中での販売台数シェアは過去最高の6.3%を占めた。一転7月には前年比マイナス2%、販売台数は前月の半分に届かない8万台を割り込んでしまう。その後も前年比を割り込んだまま販売実績は推移している。2019年の販売実績は、2018年並みに留まったようだ。

 そんな中で好調なのは中国・上海工場でも生産を開始したテスラ・モデル3だ。11月のEV販売台数8万3000台中、4658台。輸入車中1位、全体でも4位の販売実績をたたき出している。モデル3は欧州でも好調な販売を続けている。昨年12月欧州でのEV販売は過去最高の7万7248台を記録し、前年同期比88%増になった。特に、BEVが前年比91%増と好調であり、EV車の中で68%を占めている。市場のBEVシェアは4.1%、PHEVと合わせ6.1%と過去最高だ。このBEVの販売を引っ張っているのはモデル3だ。

 12月の販売台数は、22137台、2位ルノー”Zoe”4700台の約5倍の売れ行きだ。EV販売に占めるシェアは29%。一人勝ち状態だ。年間を通しても9万5247台、シェア17%だ。将来テスラの強力な競争相手になりそうだったダイソンもアップルもEV開発を諦めたようだ。ますますテスラの一人勝ち状態になるのだろうか。

競争力のある儲かるEVを製造するのは難しい

 昨年10月ダイソン創業者のジェームズ・ダイソンは、ダイソン自動車についての書簡を従業員に発表した。その中で「ダイソン自動車チームは、社是に忠実に沿い素晴らしい車を作るため工夫を重ねてきたが、商業生産に足るEVを製造するのは無理なことが分かった。プロジェクトの買い手を探したが見つからず、ダイソンの取締役会は自動車プロジェクトを閉める決定をしたことを皆さんにお伝えしたい。従業員の大半を他の部門で引き取るが、そうでない方には転職の支援を惜しまない」と述べている。

 ダイソンは2015年に全個体電池のスタートアップ企業を買収しており、その電池を利用する一つの方法がEV製造だった。書簡から遡ること1年、2018年の11月にはシンガポールにEV製造工場を建設すると発表していたので大きな方針転換だ。一方、EVに関心を示していたアップルも車の製造は諦めたのではと言われている。アップルはタイタンと呼ばれるEV製造プロジェクトを進めていると言われていたが、車の製造を諦め、自動運転などの技術とソフトに焦点を移していると報道されている。

 EV製造を諦めるのは、競争力のある価格で安全性に問題がない耐久性のある車を製造することが難しいからだろう。ダイソンあるいはアップルの収益率と比較すると自動車の収益率は相対的に低い。その上、ポルシェ、ジャガー、メルセデスなどの高級車メーカが相次いでEV製造に進出してきている。IT業界ほどの利益率を望むのは難しいだろう。

 先行しているテスラも、2010年の上場後10年経ち、昨年後半にようやく利益と11億ドル(1200億円)のキャッシュフローを生み出すことができた。テスラは上海工場拡張、ドイツ・ベルリン工場建設、トラック、SUV製造と、製造場所と製品を広げているが、投資家の間ではまだ先行きに不安ありと見ている向きも多い。


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