2024年12月22日(日)

オトナの教養 週末の一冊

2020年3月13日

(aristotoo/gettyimages)

 このままでは日本の屋台骨である製造業が決定的な敗北を喫してしまうのではないか……。『小説 第4次産業革命 日本の製造業を救え』(日経BP)を読むと、不安な気持ちになる。〝小説〟だからといって侮ることなかれ。むしろ、小説だからこそ、最後は希望が持てるストーリーで終わっているが、実際にここまで対応できる会社は、そう多くはないだろうことは想像に難くない。

藤野直明(ふじの・なおあき)早稲田大学理工学部卒業、東京大学大学院工学研究科博士課程修了。日本オペレーションズ・リサーチ学会フェロー。RRI・ロボット革命イニシアティブWG1(IIOT第4次産業革命WG)情報マーケティングチーム・リーダー。著書に『サプライチェーン経営入門』(共著)など。
梶野真弘(かじの・まさひろ)東北大学大学院工学研究科原子核工学修了。著書に『電子決済ビジネス』『企業通貨マーケティング』(ともに共著)。

 小説のストーリーはこうだ。

 中堅部品メーカーのケイテック社。その技術力が認められてドイツの大手企業から商談が入る。先方のオーダーに応えた品物を作ることはできたものの、「生産プロセス管理」が不十分ということで、商談はキャンセルになってしまう。

 製造業に限らず、日本の現場でよくあることだが、生産(仕事)のプロセスやノウハウが個々人の頭の中にある、つまり「暗黙知」となっていて「形式知(組織知)」化されていない。

 だから、納期(仕事の終了)までにどのくらいの時間が必要で、コストがいくらかかるかは、個々人の経験や勘から引っ張り出すしかない。

 小説では、ドイツ企業との商談失敗を受けて、ケイテック社がこれまでの生産体制を抜本的に見直し、「第4次産業革命」に対応した企業に生まれ変わるプロセスを描いている。

 要するに今後、日本製造業におけるあるべき姿を示している。

 筆者の二人は、数百カ所にもおよぶ国内外の製造現場に足を運んだ、野村総合研究所・主席研究員の藤野直明さんと、同上級コンサルタントの梶野真弘さん。執筆の動機を、小説の終わり近くで主人公に語らせている。

 「日本の製造業は品質は優れていますが、それ以外の点で諸外国との競争に負けてしまうケースも多く見られます。実にもったいない。(中略)仕組みさえあれば、日本の製造業の現場技術者は世界一の水準です。(中略)そのような技術者が、まさに素手で、ITを装備した新興国と競争している」

ゲームのルールが変わった

 梶野さんが「ゲームのルールが変わろうとしているのです」と話せば、藤野さんは「いや、すでに変わってしまったのです」と、後を継ぐ。

 日本の製造現場は、「下請け」や「系列」という言葉に表されるよに、「縦の関係」のなかで「すり合わせ」をして製品を作ってきた。

 しかし、世界は「モジュール化」と呼ばれる「横の関係」で、部材を集めてそれを統合することに主軸を移している。横のつながりをスムーズにするためにはインターフェイスを共通化することが必要になる。

 例えば日本企業では、自社の中国A工場、メキシコB工場、日本C工場で「切磋琢磨」という掛け声のもと競わせる。一方、世界の潮流はプラットホームを共通化して、どこの工場でも同一品質の物を作ることを志向している。

 そのため、サイバーフィジカルシステム(CPS)と呼ばれる標準化活動が活発化しており、統合基幹業務システム(ERP=会計、人事、生産、流通、販売情報を統合して一元化するシステム)、製造実行システム(MES)、製品ライフサイクルマネジメント(PLM)などというソフトウェアの導入が進んでいる。

 ところが、日本においてソフトウェアの導入は、経理・財務部門での使用に止まっていることが多いという。


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